第12話「新種登録」

「……イイヒリョウニナレヨー」


 いつものように解体・・

 あまりにもデカいので、いくつかの部位に分ける。


 ただ、骨だけは別だ。

 なにせ、こいつが固い!!

 さすがオーガとでもいうべきか、プレス機でも潰せないくらいに骨が頑丈だったので、やむを得ず骨と肉を専用の器材でバラバラにした。


 ……するとまぁ、血がこびり付いた骨の山。


 なんというか、おかげさまで見る者が見たら、やっばい絵面だ……。


「うっわ……グッロー……」


 せめて、肉だけはミンチにしてから徐々にコンポスターに投入───……したものの巨大生物オーガ1体分いりで、あっというまに満杯になってしまった。


 あ。

 骨はね。とりあえずね。乾燥させるね。。匂うからね……。

(その後で焼いて粉砕でもするかー……)


 やってることがメッチャ犯罪ちっく……。


「ってか、あーもう! このくそ暑い中、な~んでオーガを解体バラさにゃならんのよ!! ったく、ポンタの奴めぇ……! しばらく大人しいと思ったら、これだ……!」


 オーク肉は有り余っているところにこれ・・だ……。


 それでもオークなら、食えもしないオーガよりは幾分マシだけど。


「……っと、これがそうか? 記録用機材を使うのなんて久しぶりだな」


 CTスキャナっぽい解体機に備えつけられている端末を操作する。

 キーボードつきのそれ・・会社大空カンパニーの立ち上げ直後に、そこそこ活躍していたという記録用機材だ。


 なぜこれを思い出したかというと───。


「───新種登録で金になるとはね……知らなかったぜ」



  【新種登録】と学術研究協力金・・・・・・・



 なんとかポンタが狩ってくるものを換金する手段はないものかと頭を悩ませていた時、ふと検索に引っかかったのがこれだ。


 ……ようするに、これ・・

 ダンジョン研究のために、新種を発見したハンターやサポーター、あるいは企業に報酬金をあげるという制度だ。


 これがまた簡単で、専用の器材でデータを取って、研究機関にメールで送るだけ。


 あとは、むこうが勝手にデータベースと照合してくれて、晴れて新種と認定されればあら不思議───国連のなんかすごいところ・・・・・・・・・からポン♪ と報奨金が振り込まれるってわけだ。


 とはいえ……そう簡単に新種なんて見つかるはずもないと思うけど───万が一ということもある。


 人類が上層~中層を攻略して以来、新種が発見されなくなって久しく、

 元の会社でもこの器材はほとんど使われていなかった。


 ……しかし、なんたって犬小屋サイズのダンジョンだ。もしかすると既存のダンジョンとは違う生態かもしれない。


 ───と、いうわけで……。


 物は試しと、記録した資料を送ってみることにしたわけだ。


 くだんのオーガはもちろんのこと、記録忘れと思っていた赤ゴブリンと、オークの二体もしっかりと記録されていた。

 なんと、前の会社に無理やり押し付けられたこれらの器材───……どうやら、ただのプレスマシンではなかったらしい。


 くっ、侮れんな……『大空カンパニー夜逃げのブラック企業』め。


「え~っと……どれどれ。──────んー、国連のダンジョン研究所のメールにして、資料を添付。…………それだけでいいのな?」


 そうして、新種と認定されれば報酬金が送金されるらしい。


 簡単だなー。


 そのほかにも、命名権などもあるらしいが、別にそれはどうでもいいや。

 研究機関に一任というチェックボックスに「レ点」を入れてっ、と……。


「ありゃ……?? 以前送ったメールの使いまわしで行こうと思ったけど、この文書……英語だからそもそも読めないな。……ま、しゃーねぇ、前の会社のやつのまま使えばいいかな───送金先もそのままでいいや。どうせ、会社が配ってた社員用の口座はまだ使えるんだし」


 国連のダンジョン研究所に新種発見の報告は、器材からそのまま送ることができるらしい。

 そういえば、会社に入社した直後は何度か操作した覚えがある。


 さ~て……送信先履歴───っと、


「おー、あったあった! 古いけどまだメールは生きているな」


 仕組みはよくわからないけど、

 プレス機に、病院にあるCTスキャナみたいなやつの脇にパソコンがくっついているような構造──だと思ってもらえばいい。


 そして、メールは器材からの直通になっており、ポチっと押すだけ。


 前の会社が設定していたから詳しいことはわからないけど、

 こんな機能がついているのも、親会社が送ってきた素材の中に万が一新種がいた場合に備えての機能だとか?

 そんなわけで、滅多に使われた記憶はないけどね───。


 ……ちなみに文面は使いまわしだ。

 だって英語なんてわかんないも~ん!


 まぁ、会社ならよくあることだ。だいたいが「hello!」とか「hi!」から始まってる定型句だし間違いはないだろう。それに文面よりも資料が重要なわけで相手も真剣に読んでないっしょ。


 ちなみに、送金される口座は、前の会社が社員にそれぞれ渡していたもので、給与の振り込みに使われていたものだ。


 なんでも、送金代をケチるためだとか、……ほんっと、ケチでブラックな会社だったよなー。


 ……しかも、口座の氏名欄なんて、社員名じゃなくて、社員番号だぜ?

 だれが、氏名:1209 さんだ! どこのだれかわからんわッ!


 ……とりあえず、送っておこう。小銭稼ぎになれば幸いというものだ。




 ポチっとなー。




「うむ。しゅーりょー!……これで新種認定されれば、ボーナスがもらえるって寸法かー。ポンタには参ったが、これはこれでありだな」


 そんなに簡単に新種が発見されるはずもないが、

 機械的に、新種かどうかを判定して、ポチッと入金されるお手軽システムだ。

 万が一にでも入金されれば儲けものと考えておこう。


 しかもこれ───国連のダンジョン研究所は、完全に独立部門ゆえ、日本の司法が手を出せるところではない。

 例え金が振り込まれたとしても、それはただの報酬金。つまり───合法。……じつに素晴らしい!


 ひとつ懸念があるとすれば入手経路を調べられるかもしれないというところだが……その辺は、じつは心配していない。


 なにせ、この報酬金自体が結構昔に制定されたもので、法整備前のカビの生えた制度なのだ。


 それも、一昔前のダンジョン発見直後の慣習に則っているせいか、システムだけは当時のまま。

 なんせ、一昔前の新種だらけの一件一件を精査している暇などなかった時代の名残のそれ・・なのだという。


 まさに規則が時代に追い付いていない事例そのものだ。

 ……まぁ、お役所によくあることさ───。


おかげさまでチェックはくっそザル・・なのだとか。


 ジキジキジキジキ……。


 ハードディスクの唸り音とともに、膨大なデータが遥か地球の反対にある国連の研究所までデータを飛ばしていく。

 読み込みが遅いPC画面を睨みながらふと思い出す。



「…………あ。そういや、これなんなんだろうな」



 ポケットから取り出したのは、綺麗に洗ったあとの石ころだ。

 いや、石ころというにはあまりにも大きく、美しい色をしている。


 そう。

 これってば、がオーガの首を切り落とした時に出て来たもので、

 やたらとデカくて不思議な輝きをしている石だった。



 ……まさか『魔石・・』だったりして───??



「………………ははは、ないない。ないわー。『魔石』の入手確率すごいっていうしな───……。だいたいこんなにデカイのは億クラスどころじゃないぞ」


 そんなものを犬小屋から発見できる確率ってどんなもんよ? 第一、魔石だったとしても換金手段がないしね……!


「それにしてもポンタのやつ……」

 冗談めかしてポンタにとってこいなんて言ったけど、まさかねー。


 ちなみに、『魔石』だった場合の価値は、スマホ調べでは、ざっくりとこんな感じ?


 たしか、サイズは極小から極大までで……。


 極小:100万

 小:数百万

 中:1000万

 大:億単位

 特大:値段外───。


 具体的な例でいうなら。


 極小で鼻くそサイズ、

 特大でこぶし大だ。


 そして、オーガから出てきたものは……ソフトボールくらいのデカさ。


 サイズ表現でいうなら【極大】とでもいうのだろうか?

 値段外の『特大』───それよりもデカイ・・・・・・・・『魔石』ってどんだけだよ!


 とはいえ、現状の高橋には無用の長物だ。


 膨大なエネルギーを秘めた魔石は、いまだ研究中とはいえ、原子力に変わるエネルギーとなる可能性があるんだってー。


 それらの未来に価値を見出しての先行投資としての値段というわけ、各国は魔石の収集に躍起になっているらしい、っと───。


 以上、スマホ調べでしたー。


「……へー」

 すげー気のない返事をスマホにしつつ、

「──とりあえず、保管しとくか」


 魔石でないなら、この石が何かは知らんけど。

 とりあえず、作業部屋の片隅に放置。

 回収した斬馬刀みたいなも、洗っていっしょくた・・・・・・にして置いておく。


 捨てようにも、デカすぎるからね……。


 それに下手なもんをゴミ置き場にもっていこうものなら───例の近所のおばちゃんがうるさいのなんのって!


 ……今時、ゴミ袋チェックしてやがんのよ? あのババア!

 そんでもって、ちょ~~~~~っとでも、回収外のものが入ってたら、わざわざ家の前にもってきて放置しやがんの!


 クソババアめ……。


「……すると、これもちゃんと分別しないとな」


 取り出したのはオーガの装備の数々。

 といっても、オーガが持っていたのは、デッカイ鉈のほかは、腰蓑だけ。


 そして、この腰蓑なのだが───。


「うわー、これ──くっせーな……。地獄の匂いかこれはぁぁぁ!!」


 あーもー、速攻で捨てたい。

 だけど、確認しないと余計にひどい目を見るのは火を見るより明らか。


 …………具体的にはゴミの分別に困る!!


「う~ん。やっぱこれポリエステルとかだよな? タグがないけど、どうみても迷彩服だし」


 だったら、迷彩服って燃えるゴミでいいんだよね?

 なんかテレビとかで難燃素材って聞いた気がするけど───。


「それになんだこりゃ……?? な~んか、アメリカのマークっぽくみえるんだよなー」


 他にもロシアの三色旗とか、中国っぽいものも……。


 とはいえ、確証はない。

 雑に縫い合わされたそれはボロボロのドロドロだ。

 オマケに血汚れを吸って元の色が分からないほど。


「まいいや、燃えるゴミだな、これは」


 くっせーし!!


 迷わず、迷彩服の腰蓑をゴミ箱に投入する高橋。

 ……さすがこれは肥料にはならない。


「んー。それにしても、変なオーガだったよなー。あの腰蓑からして、もしかして軍隊と戦ったことあるのかね?……ははっ、案外、マジでコイツってネームド・・・・だったりしてー」


 軍隊と交戦経験のある、超危険指定モンスター。


 通称:ネームド


 ──二つ名持ちの化け物だ。


「HAHAHA……ないない。ないない、ないわー」


 だって、ポンタが狩ってきたんだもの。


 これがネームドだったら、ポンタって特殊部隊より強いってことよ?

 そんなわけないしねー。


「……あと、これはなんだろうな?……機械?」


 そしてもう一つ。

 解体工程でより分けたものの中にでてきたものがあったのだが───……。


「んー。迷彩服着てた人の持ち物かな? プレスで壊しちゃったけど、……なんだろ? チップかな??……半導体とかにもみえるなー」


 オーガ体内から出て来たそれ。

 明らかに人工物なので、迷彩服の持ち主が持っていたものかもしれない。


 ……これもさすがに売れないし、肥料にもならない。


 ならば、

「捨~てよ──────」


 迷彩服と一緒に、燃えるゴミへ…………。







「あ!!!!!!!」







 ……燃えないゴミか、こっちは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る