第13話「国際貢献」

「あー疲れた……」


 長い時間をかけてようやくオーガの解体終了。

 前の会社なら数人がかりで取り掛かっていた作業を、たった一人で終わらせたのだ。


 ったく、どっと疲れたぜ……。


『く~ん……』


 ポンタがしょんぼりしている。

 どうやら、高橋があまりうれしそうでなかったので落ち込んでいるらしい。


「そんな顔するなよ、ポンタぁ───わかってくれな」

『へっへっへ……。ひゅーん……』


 悲しそうな目で高橋を見つめるポンタ。

 そのつぶらな瞳の破壊力はすさまじい……。


「ぐ───」


 い、いかんいかん。

 ここで下手に褒めたら、また何をしでかすか分かったもんじゃない。


 この前は、手放しで褒めたらオークは持ってくるし、しまいにはオーガまで……。


 ぶっちゃけ命がいくらあっても足りやしない。


 とはいえ、かわいいポンタを叱りっぱなしも具合が悪い。

 とりあえず、ジャーキー作りの途中ででてきた端肉をポンタにやると嬉しそうにがっついていく。


 相変わらずチョローーーーイ……!


 ……もともとポンタが狩ってきたオークだけどねー。


「にしても、旨そうに食うな―」


 ポンタの食べっぷりを見てたら腹が減ってきた。

 でも疲れ切って作るのも、面倒くさいし……。


 うん、半生ジャーキーと塩漬け肉の煮物でいいや。


 つけたばかりの塩漬け肉を塩抜きのついでに、低温調理機でじっくりと煮込む。

 これは放置するだけでいいので楽ちんだ。


 臭み消しにショウガを丸ごと一個入れておく。

 ……雑だけど、いいんだよ!!


 あとは、ジャーキーをコンロで炙りながら齧るだけ。


 ……うむ、旨い!!


「だけど、このところ肉ばっか食ってるなー」


 聞きようによっては贅沢な話だ。


 だけどね。

 肉ばっかりだとね。

 さすがに栄養が、ね……。


「なぁ、ポンタぁ。今度は野菜もとってきてくれよー」……な~んてね。 


『わふッ??』


 はは、わかるわけないか。

 ……野菜なんて食わないもんな、ポンタは。


「冗談、冗談。庭で遊ぶのはいいけど、ほどほどになー」


 結局、ポンタの視線に根負けして庭を解禁にしたらものの、ポンタのやつまた犬小屋に入るよなー……。


 ……危ないし、ポンタの身の安全を考えると、本来なら・・・・犬小屋には近づけない方がいいだろう。


 本来ならの意味がよくわからんが……


 とはいえ……。

『きゅ~ん……ピスピス』

 う……!

「そ、そんな悲しそうな顔してもダメ!!」


『くぅ~ん、くんくん』


 うぐぐ……。


 庭はポンタの世界の中心なのだろう。

 飼い犬にとっては自分の部屋のようなもの。


 寝床であった犬小屋がつかえなくなったうえ、部屋も取りあげられたとなればポンタとて悲しいに違いない……。


『きゅ~ん……』


 つぶらな瞳で───。


「……うぐぐぐ。わ、わかった! わかったよ。……じゃあこうしよう!」

『わふっ?』


 ガラガラガラ。


 庭行きの扉を開けてやり、

「俺が家にいるときは庭で遊んでもよし!……ただし、」

『わふわふ♪』


「犬小屋は禁止!」

『わ、わふッ?!』


「そして、寝るときと、俺が外出中は玄関で待つ!! これでどうだ?」

『うー………わふん、わふん! わふッわふ♪』


 へっへっへっへっへ!


「通じたかな───って、うおぉぉお! 舐めるな!……ぶわッ、くさ!!」

 

 顔面を涎だらけにされたが、ポンタは喜び庭駆け回る。


『ワォォオオオン♪』

「はっはっは。可愛いなー」


 ポンタが喜ぶ姿を尻目に、ビールを開ける。


 ぶしゅ♪


「───ぐびぐび」


 ぷはー!!


「旨いッ!」


 たまの酒くらいいいだろう。

 今日はホントに疲れた。

 庭を駆けまわるポンタを眺めながら、平和そのものの光景にホッコリ。


 ……ほんの数時間前まで、そこにオーガがいたのは、まぁ、その、なんだ───。



    気・に・す・ん・な!!



 第一、ポンタときたら庭を舞い飛ぶトンボに夢中だ。

 短めの足で何とか捕まえようとピョンピョン跳ねている。


 ……あー、可愛い。


 あれ・・が、数メートルのオークとかオーガを捕まえて来たのだから、一体どうなってるのやら。

 っていうか、犬小屋の中ってマジでどうなってんの?


「まぁ、気にしたところではいれもしないし……」


 今のところ実害もないしね……。


(…………たまーに、オークとかオーガとか出てくるけどねー)


 しかし、犬小屋がダンジョンになってるとは思えないノホホンとした光景。

 トンボと戯れるポンタをみていると、だんだん、ちょっとウトウト……。


「むぅ……」


 疲れ切った体にビール。


 しかも、残暑の厳しい中での作業だ。

 自分で思っている以上に体力を消耗し、水分も失っていたのだろう。


 そこに、アルコールを摂取したわけだ。

 そりゃ眠くもなる…………。



 ぐー……。



 いつのまにか、ジャーキーを咥えたまま眠りに落ちてしまった高橋であったのだが───。



 その頃、

 さっき送ったメールが『国連』に届いているとは、つゆ知らず…………。





※ ポンタの戦果:なし ※


 《クラフト:オークジャーキー(乾燥中)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る