第24話「タマをつぶした」

「ん~? なんだこれ? キラキラしてるけど……あ、」


 やべっ。


 これって、もしかして『魔石』か?

 たしか、オーガからも出てきたあれだ。


「うわっちゃー……やっちまったー……。本物だったら、凄い高値がつくあれ・・じゃん」


 しまったなー。


「まー。そんな連続で『魔石』っぽい何かが出るとは思えないし、ドラゴンの胆石かなんかなんだろうけど」


 それでも十分に価値がありそうだけどね……。

 だって、噂に聞くドラゴン素材だもん───高橋には、法律とかのせいで売れないので関係ないけどねー!


 ……うーん、いっそ恵美に頼むか?


   「うししし……!」


 うん、だめだ。


 奴の小悪魔的な笑いが脳内にリフレインする。

 恵美なら、平気で警察呼びそうだ。っていうか、呼ぶな。


「…………ま、いいや。どうせ、本物だとしても俺には売れないしねー。諦めも肝心、肝心」


 肝なだけに──。


 じつは高橋も換金を試みたことがあるのだ。

 なんとかしてオーガの魔石(?)っぽいものを売れないものかと──。

 そんで、一応ネットで売れないか検索してみた。

 某有名オークションとか、有名フリマアプリとかでね。


 うん………………あるにはあった? あったよ?


 ……めっちゃ偽物臭いのがね!!


 あー。あと、やっぱしオークションでも違法なんだってね……。

 ダンジョンから採ったものを、許可のない個人が売るのって……。


 しかも、下手したら懲役だってさ──。



 ……こッわ!!

 ……怖ぁっぁあ!!



 というわけで、「ハイ、シューリョー」ってなもんで、あっさりと個人でどうにかしようとするのを諦めた高橋。


 なので、オーガから入手したソフトボール大の魔石(?)は仏壇に飾っておいた。


 ……なんとなく御利益とかありそうだし?

 南無南無……。


「しかし、ドラゴンの石───この欠片のサイズでいけば、もしかして、もしかしなくても、これ……滅茶苦茶デカかったのか?」


 ちょっと、やっちまった感がある高橋。

 小指程度のサイズにバラバラになったうっすらと光る魔石(?)は無数の粒になって庭に散らばってしまった。


「……しゃーねぇ、このまま漉き込んでおこう」


 回収するのが面倒になった高橋は、ユンボパワー全開で、畑予定の地面にそれらを漉き込んでいく。

 小型ショベルの履帯でバリバリと割り砕き、細かく細かくしたあとで、ショベルで丁寧に土と混ぜる。


 この辺はオーク肥料とオーガ肥料の畑も作る予定だし、ついでにジャイアントマンドラゴラの生ゴミ入りだ。

 いまさら、ドラゴンの胆石の一個二個増えたところで、な~んも変わりないでしょー。


「これもあれも、肥料だ、肥料ッ」


 混~ぜ混ぜっ。

 ……胆石も、石の一種なら土に混ぜれば、いつか風化していくだろうさ。


「───おーし、証拠隠滅完了ー」


 とはいえ、全部隠せたわけではない。

 なにせドラゴンの頭部はデカすぎるので、な~んか、庭からドラゴンの口っぽいのが見えてるけどね……。


 うん。大丈夫、気にしなければ勝ちだ。


 ……それよりも、早く片付けなければならないものがたくさんあるんだった!!


 庭にいつまでも時間をかけていられない。


「さって、こっちはどうするかなー」


 さすがに庭はもうキャパオーバーだ。

 掘って埋めて漉き込んで───微生物パゥワーで分解するにしても、ちょ~~~っと時間をおいてやらないと、悪臭でとんでもないことになる。


 いまだって、ドラゴンの頭部がむりやり埋まっているのに───。


「うーん。とりあえず、肥料をまいてコンポスターに空きは出来たけど……」


 さすがにこの量はな……。


 小分けにされたドラゴン(?)を見てちょっと天を仰ぐ高橋。


 肉の量だけで結構な量だ。

 しかも、皮がくっそ硬い───……!


「これ、分解するの無理だろ……」


 ちょっとした鉄板並みの硬度を誇るドラゴン(?)の甲皮。


 そして、骨!!


 オーガの鉈とダイヤモンドカッター付きの解体機でなんとかばらせるだろうが、それをしようとすれば何度鉈を素振りする羽目になるのやら……。


 その点、肉はまだ何とかなりそうだが……量が半端じゃない!


「うー……しゃーなしッ! 新種モンスター、10マンの報酬のためだ───」


 実際、新種登録の報酬金がなければとっくに心が折れていただろう。

 10万円が多いのか少ないのかは判断がつかないが、1日で稼げると考えれば大したものだと思う。


「レッツ解体!」


 まず、匂いがひどいので、皮と骨はいつものように乾燥させよう!

 とりあえず、サイズをちいさくするため解体機でなんとか切るも、人工ダイヤモンドの刃に、相当負荷がかかっている。


「んー……オーガといい、このドラゴンといい、どんな硬度してんだよ!!」


 まるで分厚い鉄板でも切っているような気になってくる。

(くそ、器材が壊れるぞ……?!)


 キュィィィイイイイイン!!


「だーーーーくそ、きれねぇぇええ!!」


 かったっ!!

 これかっったぁぁぁああ!!


 ……あー。もういい!!

 臭気除けに乾燥だけさせておこう。


「だんだん、我が家の見た目がやばくなってくるな……」


 以前、恵美に猟奇殺人鬼の家といわれてのも言いえて妙だ……。

 オーガの骨の山に、冷蔵庫には新鮮な肉がぎっしり───。


 そこに、ドラゴンの骨やら、肉が加わるのだから……。

 うぇ、今さらながら匂いが気になってきた……!


「ちょ、ちょっと本格的に何とかしないとまずいか?」


 コンポスターで肥料にするのは、まぁなんとかなる……。だが問題は骨と肉と──────ドラゴンの皮だ。

 あと、角とか爪もある。


「こーゆのって、ファンタジー世界だと高値で売れると評判なんだろうけどなー」


 悲しいかな、ここ現実です。

 骨とか、どーしろってんだよ……。


 そもそも、ネットで検索してもドラゴンのことがさっぱりヒットしない。

 検索ででてくるのは、ゲームや小説の話ばかりだ。


 ダンジョン関連の検索にかけては、ほとんどが噂の類。


 ラスボスはドラゴンだの、

 ドラゴンによって米軍が壊滅しただの、

 そもそもドラゴンは存在しないだの───。


「現実世界じゃ、マジで邪魔なだけだなー」


 ドラゴンにロマンもくそもねぇ。

 ただのデッカイトカゲだ!!


 肉とか内臓とか生ぐせぇのなんのって!!


「あーもう、乾燥させたらカッターで細かく分けて埋めるか……」


 超めんどくさい。

 ドラゴンの残骸にうんざりしながら、今日も今日とて高橋は解体作業を続けるのだった。


「……つーか、なんで俺、前の会社と同じことしてるんだろ───」

 むしろ、前の会社より働いてる気もしてきた……しかも無報酬でぇ!


 ───がびーん。


(……一体当たり10万円の収入(?)があるとはいえ、このままじゃ一生就職できなくない?! なくなくなーい!?)


 あのブラックな素材解体業の会社が夜逃げしたのに、以前と同じように朝から晩まで働いていることに気付いて、落ち込む高橋であった……。




 ……ちなみに、ドラゴン肉。

 ちょっと焼いてみたけど、硬くて食えたもんじゃないです。

 あかん、これは、ちょっと料理の仕方を考えないとな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る