第8話「獲物その3…………あかんあかんあかーーん!!」

 一抱えもある肉を抱えて、意気揚々と帰っていく恵美を見送る高橋。


 ……あいつパワーあるなー。


「ふーむ。それにしても、サポーターか……」


 てっきり、あの大金はエッチなことして稼いだのかと……。叔父さんちょっとドキドキしたぜ。


 しかし、なるほど……。


 最前線で戦う冒険者を支える、サポート役のバイトか。


 正確に言うならサポーターも冒険者の一種で、

 最前線で戦うものをハンターやソルジャーと呼ぶらしい。


 細かいところでいえば、民間がハンター。

 自衛隊や警察などの官営がソルジャーなんだって。


 そして、後方で支援するのが総じてサポーター。


 荷物持ちも兼ねているので、サポーターじゃなくて、「ポーター」だ、なんて揶揄して言う者もいる。



   ……民間が───以下略。



 ───で、重要なことが一つ。

 サポーターとして会社に雇われればダンジョンに入ることができるという。

 当然、冒険者の特権・・も得ることができるというわけだ。


 つまり、恵美のように、ダンジョン産のものを売ることができるという、それ特権



 …………むぅ。俺もやろうかな、サポーター。



「それにしても恵美め、俺より稼ぎやがってー……畜生ぅ」


 叔父さん、ちょっと涙が出て来たヨ。


 JKよりも稼ぎに低い叔父さんって……。

 生きてる意味あるのかなーへへへへへ……。


「はー……もう。ここはポンタ君に癒してもらおう」


 しょんぼりした高橋は、愛しのポンタ君の頭をなでなでのわしゃわしゃしようと玄関をガチャリ───。



  …………あ、あれ?



「……ポンタどこいった?」

 たしか、庭禁止のかわりに玄関に居場所を置いてやったはずだが……はて??




 …………あ!!!




  「それよりどうしたの?

   なんかポンタが玄関で、

   ションボリしてたけど……」


 ふと思い出される恵美の言葉。

 勝手に玄関を開けて、

 勝手に入ってきたフリーダムな姪っ子……。


(ま、まさか)


 アイツ───ポンタを庭に?!


「……ッ!!」


 思わず庭に向かって猛ダッシュ。

 普段、ポンタを庭で放し飼いにしていることは家族なら周知の事実。

 そのポンタが狭い玄関でションボリしていれば当然のこと──────…………ってことはー。


 ま、まさか、まさかぁぁぁあ!!

   ──あああああああああああああああ!!



「や、やっぱりぃぃぃぃぃいいいいいいい!!」


『わぉぉぉおん♪ わおん、わおーん♪』


 ポンタ君、超ご機嫌!

 超、尻尾ブンブン!!


 そして、

 やっぱり彼の御足の下には───……。


「グッローーーーーーーーーーイ!! めっちゃグッッッローーーーーーーーーイ」


『へっへっへっへっへ♪』


 褒めて褒めて、と言わんばかりのポンタ君。

 顔面血だらけにして、足蹴にしているのは本日二度目のオーーーーーーーク!!


 しかも、色違いのオーーーーーーーーーク!!


「あ、赤い! めっちゃ赤いよそのオーク!!」


 しかも、


『ごるるるるるぅ……』

「だ・か・ら、なんで生きてんの?! バカなの 死ぬの?!」


 ポンタ君たら、猫が生き餌を甚振るように、生きたモンスターを犬小屋ダンジョンから持ち帰っちゃいました……。



 …………。


 ……。



 ────ゾンンンンンッッ!!



「イイヒリョウニナレヨー」


 ゴリュゴリュゴリュ


 本日、二度目のプレス&コンポスター。

 骨がバキバキとつぶれる嫌な音に、内臓が赤ゴブリンと青オークのそれとミックスされていく。


「うぉぉ、畜生、ポンタめぇぇ……」


 再び冷蔵庫に押し込まれるオーク肉。

 冷蔵庫には入りきらず一部は冷凍庫で保存もするが……凄い見た目だ。


 なんていうか、赤い。

 冷蔵庫が赤い!!


「こんなん一人じゃ食いきれんぞ? ま、まぁ、食費はかなり浮くけど……」


 高級国産黒毛豚以上のお肉が、どうしてこうして一人では食いきれない量が手に入ってしまったよ。


 つまり、恵美に半分以上持っていかれてしまった分があっという間に補充された形になる。


 うむ。

 これだけでも主食になりそうだ。ついでにポンタの餌代も浮く。


『がふッ♪ がふッ♪』


 そして実際、ポンタ君は今──高橋の足元で絶賛オーク肉にかじりついている。

 その食いっぷりがなかなかワイルドで、野性味を感じさせるじゃな〜い。


「ポンタぁ……どうせなら、もっと金になるモンスターとってこいよ?」

『わふ?』


「ほら、金だよ!かーねー! マーニィmoney! アンダスタンUnderstand?」

『ヮ……ワフン!』


 ……あ、だめだ。

 こいつわかってねぇ……!


 オーク肉は、旨いにはうまいけど、一人と一匹で食べきれるようではない。


 内臓や骨もヤバイ。

 ……なにせコンポスターにも限りはあるし、毎日解体作業をするのもしんどい。


 ──そもそも違法だし……??


「……っていうか、言っといてなんだけど、金目のモンスターっているのか?」


 念のために確認................


 ポチッとな。

 PC画面を起動し、「ダンジョン モンスター」で検索。


 すると出るわ出るわ!

 いろんな情報が、もー出るわでるわ!!


「うっわ、すっげ……」


 元の会社でも、ダンジョン産のモンスターを解体して卸していたが、実際のところどれほどの価値があるのかよくわかっていなかった。


 だって、価値があろうがなかろうが給料変わらないもん……。


 ブラックだもん───。


 もん───。


 っと。

 ……あ、あったこれだ。

 オークの換金額───……。


「げー……オーク肉、『100g5000円~』かよ」


 安い肉でこの値段だ。


 単純計算で冷蔵庫内のオーク肉100Kgを全部売ったとして───……。


 え、ちょっとまてよ。

 ひーふーみー……。


「ぶはっ! ご、500万?!…………えぇー、500万円んんん?!」


 ちょ、ちょっとシャレにならない額のお肉だ。


「え、ええええ?! めっちゃ高級肉やん?! え? おれ、これをパンみたいにガツガツ食ってたの?! しかも、ポンタにまであげてるし!」


 超高級ドッグフードやん!


「しかも、それを30kgほど持って行った恵美のやつ……! あれ全部で150万だぞ! あ、あの野郎ー」


 ちゃっかりしている姪っ子を思い出して、表情筋がひくつく。


「く、くっそー……やられた。あいつ知ってたな……」


 ニヤニヤと笑う姪っ子の顔が思い浮かぶ、

 今頃、臨時収入でウハウハに違いない。


 一方で高橋はこれを換金する術が今のところない……。


 慌ててダンジョン開発関連の企業に応募する手もあるだろうが、その間にオーク肉は全部腐ってしまうだろう。


 採用、即出社なんていう企業は、まぁ早々ないからね……。


「つ、つまり、現状として、高級肉は食用にするしかないってことかー。……あー畜生!」


 500万だぞ! 500万!!


 悔しいなー、畜生!!


「あとは、なんだ? 換金てきそうなものって……。えーと、モンスターの装備品や…………魔石??」


 どうやら、知性を持つモンスターの中には武装している個体もいるらしい。


 その武器の中には鉄や銅で作られた物や、

 稀に希少金属で作られた物もあるらしい。


 たいていは二束三文の鉄くずだが、本当にごくまれに未知の鉱物や未知の素材で作られた物もあるのだとか───。


 また、過酷なダンジョンの環境に耐えることのできる武器は、そのまま軍やダンジョン開発企業に再利用されることもあるという。


 ……そんなものを換金した日にはもう……もぅッ! ウッハウハやん!!!


「ようするにドロップ品ってやつか───」

 RPGゲーム同じのやつだ。


 くぅ……。欲しい!

 ドロップアイテム欲しいよー。


「……なーポンタぁ、どうせなら、こういうの・・・・・とってこいよ」な~んてね。


『くぅん……?』


「なんていうのかな? ホラこれ───」


 わかるはずもないと思いつつ、PC画面を見せてやる。

 大人しく腕に抱かれるポンタが「へっへっへ♪」と下を出しながら画面を見ていた。


「『アイテム』とか、『魔石』っていうんだけどな、とくに魔石ってのは、モンスターの体内に稀にある石っころだ。…………まぁ、尿路結石・・・・のモンスター版みたいな?──わかるか?」

『へっへっへ♪』


 ぶわ! 舐めるなッ!


 顔を見合わせると何が嬉しいのかベロンベロンと顔中舐められる。

 ぶっちゃけ、武器アイテムとか魔石を持ってこられても売りようがないけどね。


 他には昆虫型モンスターの甲皮なんかも素材として優秀なんだとか。

 ……一般人の高橋には関係のないことだけどねー。


 あの恵美なら喜んで持っていきそうだが、

 できれば小生意気な姪っ子に頼りたくはない。


 また、下手に某オークションサイトに出品しようものならサイバー警察にかぎつけられて無事にお縄になるだろうし、

 現状、高橋は犬小屋ダンジョンを持て余している状態だ。


 まぁ……。しょうがない。

 ……ここは、お肉製造機だと思うことにしよう。

 ゴブリンとか持ってこられても超困るけどね。


「とりあえず、飯にするか───」


 メニューはもちろん、オーク肉。

 …………当分は、高橋家のメニューは肉料理一色になるだろう。


 うん……なんだか、さっそく気持ち悪くなってきた。味はイイんだけどねー。



 妙にションボリしたまま、高橋は台所で肉を焼いていく。



 しかし、

 その背後でポンタがPC画面をじっと見ている・・・・・・・ことにその時は気づいていなかった─────。




※ ポンタの戦果:なんか赤いオーク ※


 《クラフト:オーク肥料(内臓のみ)

  オーク肉45Kg》 ⇒ 冷蔵庫内合計、

              約100Kg

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る