第7話「姪っ子に通報されましたぁぁぁあああ!!」

 じゅー♪


 フライパンでオーク肉をイイ感じに焼きつつ、スマホ。


「……あ、これだ」


 ダンジョンWiki参照中。


「え~っと、なになに?……オークは多数のダンジョンに生息する人型モンスターで、主にダンジョンの上層から中層にかけて確認される」


 ふむふむ


 スマホに表示されたオークは2~3mの巨体で緑色の肌をした豚顔のモンスターだった。

 うむ、いかにもなオーク顔。


(……たしかに顔は似てたな)

 ポンタが捕まえてきたのとは、肌が全然違う色だけど。


「なになに……ある程度知能があり、武装している個体も確認。中堅クラスの冒険者以外はパーティで戦うことを推奨───か」


 へー……。結構強いんだな。

 だけど、青い肌の個体については記載なし。


 ちなみに、今朝見た赤いゴブリンも同様だ。


 普通のゴブリンは、緑やあさ黒い肌をした魔物で、集団で行動することが多く、場合によってはオークよりも危険とされている。


 その中には、赤い肌のゴブリンの記載はなし。


 なんだろ?

 やっぱり新種かな───??


「……お、これは」


 『新種 ␣ ゴブリン』 で、検索すると数件ヒットあり。


「え~っと、ゴブリンやオークには亜種が確認されており、主に中層から深層にかけて稀に出現することもあり、非常に───……え?」



 ……し、深層??

 ───それに非常に好戦的で危険んんんん??



「…………危険だったっけ???」



   『ごふん……!』


 ポンタに殴られてブルブル震えていたオークが脳裏に浮かぶ。



(えー、あれが??)



 ないない。……ないわー。

 だって、青いオーク……めっちゃ震えてたよ? ポンタに半殺しにされてたよ??

 犬にやられるオークとか、ザコじゃね?


「……まぁ、Wiki情報だしなー。深層モンスターが犬小屋に出現とか、ネタにもならねーよ」


 まったく冗談きついよ君ぃ、HAHAHA。


「ま、それはそれとして。……ふむふむ。亜種らしき魔物が初めて確認されたのは、ネバダ州にある砂漠型ダンジョンで、発見した米軍の特殊部隊は半数が戦死……───うっそ、マジ??」


 おいおい。

 絶対あのゴブリンとオークは関係ないわ。

 

「……ポンタが捕まえて来たモンスターが、米軍が苦戦するほどの奴なら───うちのポンタが最強ってことじゃね?……………………うん、ないわー。しかも、犬小屋の中から捕まえて来た奴だしな」


 うぷぷ(笑)。わかった。


 これかー、いわゆるフェイクニュースってやつは?


 米軍特殊部隊が苦戦するモンスターをポンタが狩ってくるとか、意味不明ー。ぶぷぅ!


「でもまぁ、その可能性も微レ存───……」



 絶命していた赤い肌のゴブリンに、

 ぶるぶる怯えていたオークを思い出し、…………「うん。ないない」と首を振る。



 だって、ポンタが捕らえてきて、……そして、コ○リのくわでトドメをさせたんだぞ?

 とてもとても、凶暴とは似て非なるものだ。

 

 だいたい、それ以外にはスマホ検索で調べてもほとんど情報が出てこない。

 まぁ、某大型掲示板には色々のってるけど、信頼性は皆無だ。


 つまり、よくあるデマか噂程度のものだろう。



 ……世界中でダンジョンが出現して、はや10年───。



 まだまだダンジョンの解明には程遠いが、アメリカなどの超大国では国家の威信にかけて調査を進めているという。


 もちろん、そのすべての情報が開示されている話ではないが、いくつかダンジョンが踏破され、攻略情報は各国で共有され、一部は民間にも開示されているのだ。


 今となっては情報を出し惜しみする方が危険ということで、よほど重要な情報以外は共有されているほど。


 ……それらの情報に基づき、比較的安全なダンジョンが民間にも開放されているのだ。

 つまり、今時、未知のモンスターなんてのが早々確認されるはずもないというわけ。


 そんなのがいるとすれば、軍隊ですら手を出せない深層くらいなものだろう。


 その深層も、大国が技術を駆使して、無人探査器材や新型ドローンなどで探っているという。


 情報こそ開示されていないが、アメリカや中国は、すでにその全貌を解明しているなんて噂だってあるし、……実際、ありそうな話だ。


 なんたってダンジョンは無尽蔵ともいえる資源の宝庫。

 危険を差し引いても、世界的な不況の今、せっかくの資源を遊ばせておく理由はない。


 深層域は危険すぎて採算が取れないというが、上層~中層は訓練を積んだ人間なら十分に進出可能で採算もとれるらしい。


 また、ダンジョン内では、金や銀のほか、『魔石』と呼ばれる膨大なエネルギーを秘めた未知の素材も取れるんだとか。


 まだまだ解析中らしいが、『魔石』には軍事・医療・エネルギー分野を飛躍的に発展させる可能性がある物質なんだとか。


 実際に、前のブラックな会社でもそういったダンジョン上層~中層でとれた素材を加工していた。

 『魔石』も、まれにモンスターの中から発見されたことがあり、その場合は厳重に梱包して親会社に転送していたものだ。


 ……ま、その確率は恐ろしく低いため、さすがにポンタが捕ってきたものの中には含まれていないだろう。


「───うん。つーことで、オーク肉はありがたく食わせてもらおう。……なんかポンタに養われてるみたいな気分になるけど、…………それもこれも不況が悪い!」


 いっそ、素材が売れればこれはこれで儲かりそうなんだけどな。


 とはいえ、ダンジョンに入るには資格が必要で、

 自衛隊か警察のそういう部署・・・・・・に行くか、

 あとは民間のダンジョン探索をしている会社に入るくらいしかない。


 ……むー。

 確かに、ダンジョン探索の冒険者系の求人は多いんだけどなー。体力勝負ってのがなー。

 あと、結構死者も多いという。

 その分福利厚生がしっかりしているというが、命を懸けるのはちょっと───。


 ───う~ん……。

 

 冒険者になれば素材も売れるんだけどなー。


 頭の中の転職先がグラグラと冒険者に傾きそうになっている。

 しかし、片方の天秤には「命の保証」がデーン! と乗っかっていて、なかなか粘っている……けど、


「──────……ぼ、冒険者ってのも、あり、…………か?」


 い、いやいや、命の保証には代えられない。

 ……で、でも、高給で無職脱出の魅力もまた……。


 命の保証、

 無職……


 命の保証、無職───……


 頭の中でその二つが、グルグルグルグル。グルグルグルグル!


 うううううう…………!

 むむむむむむ…………!


 うむむむむううう──────……よ、よっし決めた!

「俺は冒険し───」




   ───ピンポ~ン♪




「ッ……?! び、び、っくりしたー!!」


 滅多に鳴らない呼び鈴にびっくり。

 誰かと思って玄関に向かおうとして、



  「──何ブツブツ言っての、おじさん?」


 

 …………ッ!?

 背後?!


(び、びっくりしたーーーーーーー!!)

 に、二度ビックリしたわッッ!!


 なんで背後に?!

 い、いつの間に背後にぃぃいい?!


 つーか、

「……い、いいい、いきなり入ってくるなよ恵美・・ぃ!! しかも、俺は入っていいとも何とも言ってないんですけどぉぉお───!」


 人様のおウチに、ピンポンからのノーウェイトで入ってくるって───どういう神経してんの君ぃ?!


 チャイムを鳴らしてからノーウェイトで人の家の台所に入ってきたのは、セーラー服を着た少女。


 艶やかな黒髪に、出るとこは出てるわがままボディ。小柄なところがまたアンバランスでいい……!


 ───じゃないッ。


「はあ? いきなりじゃないよ? ちゃんとチャイム鳴らしたじゃん」

 いや!!

「鳴らしたら、入ってOKじゃないから!!」


 どんな常識だよ!! 叔父さんがナニ・・してたらどうすんのよ?!


 あっけらかんとしていうのは、今時の子供の感性なのだろうか。


「あーあー。うっさい、うっさ~い。わーわーわー」

「聞・け・よ!」


 まったく……。


「もう、いちいち細かいよ? 可愛い姪っ子が来ただけでもお得じゃん」

「自分で可愛いとかいうな、馬鹿たれ!」


 …………まぁ、可愛いんだけどさ!! むかつくことにぃ!

 アイドル級の可愛さを誇る、馬鹿たれ姪っ子──。


「えへへ」

「なんも褒めとらんわッ」


 …………コイツの名は高橋恵美。

 苗字から察することができると思うが、姉貴の娘。


 つまり、高橋の姪っ子だ。


 セーラー服からもわかる通り、今を煌めく女子高生というやつだ!!

 そして、くっそー……無駄に可愛いッ。ここ大事!


「それよりどうしたの? なんかポンタが玄関でションボリしてたけど……」


「あ、あー……それはその……。ちょ、ちょっと犬小屋が、ね」……ダンジョン化してて、ね。


 ……ボソッと、そこはなんとなく濁して言う高橋。


「ふーん? ま、いいや。あ、そだ。なんか一階が、めっちゃ臭いんですけど?」

「え? そう? HAHAHAちょっと生ゴミ処理が追い付いてないのかも───」


 ゴブリンとオークという生ゴミ。


「ふ~~~~~~ん? 叔父さん風呂入ってる?」

「──入っとるわぁぁぁあ!」


 失礼だね君は!!


 無職だけど、風呂は入っとるわぁぁあッ!!

 口さがない・・・・・にもほどがあるわッ!


「……だいたい、何しに来たんだっつーの?!」

「えー、お使い的な? 後、暇だし」


「『的な?』じゃねぇ! 俺が知るかぁ!───あと、俺は暇じゃねぇ!!」

「無職は暇じゃん」

「暇じゃねー無職もおるわぃ!!」

「無職=暇でしょー?」


「ぶっ殺すぞ、クソガキぃぃいい!!」


 この野郎……!

 無駄に可愛くて、無駄にデカイけしからんオパイをしよってからに!!


 揉むぞ!!

 揉みしだくぞ!!


「……触ったら殺すからね」


 ───心を読むなぁっぁあああ!!


「いや、顔に出てるから」


 どんな顔だよ!!

 姪っ子のパイパイ揉みしだきたい!ってどんな顔だよッ?!


「ぐ、ぐぬぬ……。落ち着け俺。ひっひっふー!ひっひっふー」

「それ、赤ちゃん産むときにやつだよ」

 うるせぇぇえ!!

「今、俺の『怒り』が産まれ落ちようとしてるのぉぉぉおお!!」


 なんなの?! なんなのこの子ぉぉ!!


 姉貴とは疎遠なので、あまりこの子とも本来接点はないんだけど、こうしてたまにズカズカと家に入ってくることがある。

 何が楽しくてこんな三十路のオッサンの家に来るんだか───……あ、惚れた?


「んなわけないっしょ。おじさん頭わいてる?」

「口の利き方ぁぁぁあ!」


「就職してから言いなよー」


「うっせぇーわッ! お前だって学生だろーが!」

「アタシはバイトしてますぅー。ぶっちゃけ叔父さんより稼いでますぅ。月十万以上稼いでますぅ!」


 ぐ、ぐぅぅうう……。


「ぐうの音もでないわ!」畜生……!!


 叔父さん泣いちゃうよ? 




   「……っていうか月十万?! え、うそ?!」




「ん? ホントホント、ほ~れ、ほ~れ」


 恵美の財布にビッシーーーーーーリと入った諭吉さん……。


「ちょぇぇぇえ?! え、うそ!? 今時の子、こんなに金持ってるの?」


 え、マジのすけ?

「マジの助ぇ───」


「え? なに?! ど、どーやって?! え、え? マジ、え?」


 あ、もしかして───。


「エッチなこと」

「殺すぞエロ叔父」

「誰がエロ叔父じゃ!!」


「はいはい。姪っ子視姦するのもほどほどに。……ま、そんなことより、無事みたいだね? よかったよかったー」


 ざ、雑ぅぅ!!


「生存確認が雑ぅぅう!」


「だって、昨日、パトカーとか自衛隊(?)が来てたから、何があったのか確認して来いってお母さんがね。───万が一にもないだろうけど、無職に絶望して首くくってるかもしれないから~って、言ってたよ」


「……パトカー来てたの昨日なんですけどぉぉぉおおお!!」


 そも、視姦ってなんやねん?! 俺をなんやと思ってるねん!!


 だいたい、心配して様子見に来るくらいなら昨日来いっつーーーの!

 つーか、姉貴も心配してるなら自分で来いよ!


 ああああああああ、もおおおおおおおおおお!!


「だって昨日、金曜ロードショー見たかったし」

「俺の命は金曜ロードショーより下なのぉ?!」


「うん」


「……返答、はやっ!!」


 即答すなっ!


 ……つーか、それ21時開始だからね?

 全然時間に余裕あったよね?


 …………え。俺って実の家族からそんな扱い?


「うん」


「うん♪───じぇねーよ! 泣くぞ」


「『♪』まではつけてないよ?…………それより、叔父さん。それってオーク肉? え? 高級品じゃん」


 ───それよりって君ぃ! 俺の悲しみはそれよりなのか!!

 ……何? 今時のJKってみんなこんな感じなの??


 高橋の悲しみをよそに、フライパンの上でいい感じに焼けている肉を物欲しそうに見る恵美。


「………………やらんぞ」

「いいよ、自分で焼くから」


「おう───って、」


 やらんっって言っとるだろうがぁぁあ!!

 自分で焼いたらいいって意味じゃないからぁぁあ!! 「──って、もう焼いとるぅぅう!?」


 自由ッ?

 自由なの?!


「うわっ! すっごい油───! いい匂~い♪ ねねね、叔父さん! 余ってるならちょっと貰って帰ってもいい───って……?!」

「あ、ちょ!!」


 ごぱっ


「…え?! 何この量?! あ、赤ッ!! 冷蔵庫、赤ーいッ! そして、ぐろーい!!…………って、ええー? これ全部オーク肉?! れ、冷蔵庫の中、肉ぎっしりで猟奇的なんですけどぉー」


 フリーダムに台所を漁る恵美が冷蔵庫を開けると、ポンタが狩ってきたオーク肉がぎっしり……。






 ……み、み、見られたぁぁぁあ!







「え、これ…………。ちょっと、マジでこの量のオーク肉ってマジでどうしたの?」

「あー……キンジョ近所モラッタ貰った


 うん、嘘じゃないよ?

 近所で、貰ったポンタに



「…………じとー」



 そ、そんなに見るなよ。

 照れるじゃねーか。


「じとじとー……」

 叔父さんとっても、

「───テヘ」



 ピッピップー110



「あ、警察ですか?」

「ちょ──────!」


 なんで? なんでノータイムで警察に電話するの?!


 俺、叔父さんですよ!?

 身内ですよ?!


 ……や、やめーーーーーい!!


「え、恵美ぃ!!」


 ガバチョ!!

 で、電話をさせんぞッ! まずは話を聞けぇっぇええ!


「キャー……オカサレル犯されるー」

「誰が犯すか!!」


 だ・れ・が・犯・か・す・か!!


 クソったれぇ! 棒読みで悲鳴上げるなー!

 電話を取り上げるだけじゃー!!









   ファンファンファンファンファン!!








「──いいですか? 今回は厳重注意だけに留めますが、繰り返しあると、悪質な公務執行妨害として逮捕もありえますからね!」


 はい、はい!


「すみませんでしたー!!」

「スミマセンデシター」


 ペコォ。と頭を下げる高橋に、警察官はしっかりと注意だけに留めて帰っていった。


 先日、ダンジョンが発生した時に一番早くに来たあの警官だったおかげで事なきを得たところ───。


 ……最近、よくパトカー来るなーと思考が停止しそうになるが、

 パトカーが去っていくまでしっかりと頭を下げ続けたところで──────……「ちょ~っと、来たまえ恵美ちゃ~ん」


「えー。お肉食べてからにしようよー」

 わかったわかった、しゃーないなー…………って、

「食っとる場合かぁぁぁあ! って、もう食っとるしぃぃい!!」


 そのお肉のせいで通報しようとした奴が何言っとるかね?!

 とりあえず、コイツはノーウェイトNo waitで警察に通報するような危ない奴だから、色々胡麻化しつつ、オーク肉のことを言わねば。


 あと、賄賂として多めにくれてやらねば……トホホ。


「───まず、肉はくれてやる! 好きなだけもってけ!」

「え? ほんと! じゃー半分」


 ……………………遠慮しろや!!!


「わ、わかったわかった。もってけ泥棒」

「わーい♪」


「……で、だ。これはホントにご近所さんに貰ったの!」


 そう、ポンタ君ご近所がね。


「んー? まぁ、色々怪しいけど、それで貰えるならいいや」

「んんんー、現金んんんんんん!!」


 ───今時のJKって現金んんん!!


(ったく、通報しておいてコイツ……!)


「それにしても、こんだけあるなら売ればいいのに。結構なお値段になるよ?」

「売れたら文句はねーよ。知ってるだろ? ダンジョン管理法」


 今時、学校で習う常識だ。


「知ってるよ? でも、簡単じゃん? アタシのバイト先で売ってこようか?」

「………………ホワイ?」


 え?

 何言ってんのコイツ?


 バイト先で──────……え?

 ……バイト??



 も、もしかして、エッチ系な奴?


 ゴクリ───この体で月10万以上も……。






「ん? お母さんに聞いてない? アタシ今サポーター・・・・・のバイトやってんの。ってか、なんか目がエロイんですけど。殺しますよ?」



 ……殺すなし!!





 ──っていうか、恵美さん、高校生なのにサポーターしてんの?!




※ ポンタの戦果:なし ※


 《料理:オーク肉ステーキ(700g)》

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