第6話「獲物その2………………って、をいぃぃい!」

「あー疲れた……。朝から重労働だったぜー」


 最近…腰痛を感じるお年頃。

 だって、中年ですもの───。


 バイオコンポスターがゴロンゴロンと起動し、赤い肌のゴブリンを肥料に変えていく。

 変えていくのだが、別に肥料が欲しかったわけではない。

 とはいえ、「……う~ん」せっかくだし本当に肥料にして使おうかな?

 モンスターで作った高級肥料は、高級野菜になるって聞くしな───。


 そうだ。

 野菜を育てれば家計の足しにもなるな!

 ぶっちゃけ、そのへんの野草やそう採る・・よりも現実的だろう。




 ……───よしッ!

 そうと決まったら、ホームセンターだッ!




「んー! まっとれぃ、ポンタぁ! 数か月後はゴブリン肥料の野菜食い放題だぜー!」

『わんわん♪』


 よっしゃー! 耕すぞ───!


 さっそく野菜の種と庭を耕す道具を買いに行った高橋だったのだが───……。


 家に帰った直後、天を仰ぐ。




   おぅ、じーざす……。




『わんわんおッ♪』




 ……いや。

 いやいやいや、『わんわんお♪』───じゃないよ、君ぃ!!

 な、なんでぇ??

 な~んで数時間くらい待てないかね!!



 あーもー…………。




  すぅぅ……。

  「ポンタぁっぁあああ! どぉぉこでそのを捕ってきたぁぁああ!!」



 家に帰った直後、庭に鎮座している半殺し・・・にされたを発見した高橋がポンタに詰め寄る。


 いやほんと、なーに、ちょ~っと目を離したすきにモンスター捕ってきてるのぉぉぉお?!


 ……確かにさー、食えるもの捕ってこいって言ったけどさーーーーーーーー!!



「し、し、しかも───そいつ、」



  『ごるるるるる……』



 ま、ま、ま───


「まだ、生きとるやんけーーーーーーーー!!」


 やんけーーー

  やんけーーーー


『わふッ♪』


 すっげーどや顔で、勝ち誇った顔のポンタ。


「『わふッ♪』じゃねーわ、馬鹿犬!!」

『きゃふん♪』

 スパーン! と頭を軽くはたくも全然堪えてないよ、この子。


 前足やら顔中を血だらけにしているが、ケガらしい怪我はしていない。

 していないけど───……。


 多分返り血だわ、これ。


『ごるるるるる! ごるぅうう!!』


 ほらぁ、やっぱこっち・・・は重傷やん?!

 っていう、もはや瀕死やん?!


 っていうか、一応生きとるやーーーーーーん!


「せ、生命ってすげぇっぇえええええええ!!」

『ごるぁぁぁあああああああああああ!!』


 あああああああああああああああああああああああああああ!!


 で、でたぁぁーーー!!

 住宅街にモンスターでたっぁあああああ!!


「ちょっとぉぉぉおお! 高橋さーーーーん! うるさいですよー! 引っ越ししてくださ~~~い!」

「はーーーーーい、んまっせーーーーーーんん!!」


 やかましいわ、近所のおばちゃん!!

 こっちは、それどころじゃないわぁっぁあああ!!


『ごるるるるるるうぅ……ぶふぅー……』

「うげ!? 元気やん?!」


 ヨロヨロと立ち上がろうとする魔物。


「し、しかも、立った……!?…………ブタタが立った?!」


 豚顔なので、でっかい豚かと思ったけど…………全ッ然違う───。


「っていうか、このモンスターって……」


 二足歩行。

 豚の顔を持った巨漢……。


 ……あ、これあれやん───。


 ファンタジーおなじみの


 オ…・・──

  「オーーーーーーーークじゃねーかぁぁぁあああ!!」



『ぶるぉぉおおおおおおおおおおお!!』

 やっとの思いで立ち上がる豚。

 全身血だらけで立っているのもやっという有様だが───。


『ごるぁぁぁあああああ!! ぐぉぉおおおおおおおおおおお!!』


 怒り心頭といった有様!

 顔面から湯気を立ち昇らせ、ムキムキとした筋骨隆々の腕がもうパンパンにはちきれそう!!


「ひぇぇぇえええ?! 怒っておられるぅぅう?!」


 ───オーク。



 端的にいうと、豚人間だ。ライトノベルでおなじみの雑魚から中堅扱いの魔物。

 時々人間の女を攫って犯す設定が多い───……って、そうじゃない!!


「ど、ど、ど、どーやって持ってきたのポンタぁ?! えぇっぇえ? サイズ可笑しくない?!」

 

 ポンタの犬小屋は入口部、高さ45cm 幅35cm 奥行き不明───♪


 って、

「オーーーーーーークのサイズ3m越えなんですけどぉぉおおお!!」

『ぶぉぉぉぉぉおおお!! ぐぉぉおおおおおおおお!!』


 うぉおおおおわぁっぁああ! めっちゃお怒りやん?! めっちゃ怖いやん?! めっちゃヤバない?!


 ……つーーーーーか、どうやって持って帰ってきたのぉぉお?!

 しかも、なにそのオーク?! 

 なんか、肌が青くない?!


『わふん♪』


「『わふん♪』じゃねーよ! 馬鹿ポンタぁ!」


 ……猫みたいに、獲物を自慢しに持って帰ってくるなよ!!


「元の場所に返してこいっつーの!! あーもう! どうす──────って、うぇぇえあ?」

『ごるるるるるッッ……!』


 ズルリ……!


「こ、コイツ───動くぞ!!」


 瀕死のオークが高橋を見下ろし一歩を踏み出す。


 ───ズシン……!

  ───ズシン……!


 どうやら、散々痛めつけられはしたものの、まだまだ戦意は衰えていないらしい。


「すげぇ、エネルギーゲインが二倍いじょ……じゃない!! や、やばいやばいやばい! ど、どうしよ! どうすんのっ?!」


 オークなんて、普通、冒険者がパーティを組んで戦うんじゃ?!

 ただの無職のオッサンにどーしろってのよ!



   高橋、絶体絶命───。



「あ、そうだ! 警察───いや、ニューナンブ・・・・・・じゃ利かないか?! なら、自衛隊……、あー違う!! ここはやっぱり米軍か?! 売電ばいでん大統領か?! ああああああああ! 繋がるわけないやん!! こういう時、どこに電話したらええねんやー?!」


『わふっ!!』ベシッ!!

『ごふんッ』



 ……あ、股間にポンタの一撃───……そして、オークの目が死んだ。



   ………………うん。

   ありゃいてぇわ。



「───お~っふ……ポンタすげぇ」

 思わず、股間を抑えつつ高橋もキューンとしちゃう。

 つーか、オークさん。なんか、ポンタの一撃で戦意が消えたんですけどぉ。

 ズズ~~~ン! って倒れたんですけどぉ。


『ごるるん……』


 オークさん、めっちゃブルブル震えてるんですけどぉぉおお……!!


「ポ、ポンタくぅん??」

 き、君ぃ、このオークを一体どれだけ痛めつけたの?


 ぶるぶるぶる

  がたがたがた


「…………へ。へへ、怯えてやがるぜ、コイツぁよぉー」


 うわぉ……。怯えてるよ。

 オークが怯えてるよー。


 ──ポ、ポンタどんだけぇー。


『わふ、わふ♪』


 褒めて褒めてと尻尾をブンブン振るポンタ!


「お、おぉー、凄いぞポンタ! 強いぞ、ポンタ。………………ピンチになったのお前のせいだけどな」


 イイコ、イイコ


「ポンタいいこグッボーーーイー!」

『へっへっへっへ♪』


 あぁド畜生! 可愛いなポンタ!!

 尻尾も毛もふっさふさ。めっちゃモフモフ。そして、オークはブルブル……。



    ……って、そうじゃない!



 東京郊外に、巨大豚……………………。

 …………をーーーーーい?!


 やばい、やばい!!

 やばいよーーーーー!


 あかんで、現実逃避してる場合じゃないでぇ!

 こんな真昼間から、庭にオークが居たら目立つっつーの!!


 東京の住宅街にオークが一体って、どんだけシュールやねん!!



 あーもう!!

 かくなる上は、


「……本日二度目」




   ザ・隠ぺい!




「く───オークよ。わ、悪いけど、恨むなら日本の法律を恨んでくれッ!」


 コ〇リで買って来たばかりの鍬を振り上げる高橋。

 まさか、土に振り下ろす前に、オークに振り下ろすことになるとは……。



 証拠──────隠滅の呼吸ッ!



    南無三ッ!



 ぐわぁぁぁああ……と、振り上げられる鍬を見て、いやいやをするオーク。

 そして、ギラリと鍬の刃が太陽に反射……。


 その瞬間、あのオークが命乞いをしているようにもみえ──────……





 ぶ、ぶ、ぶ──……。


   『───ぶきぃぃいいいいいいいいいいいいいい!!』



 …………。


 ……。


 ごりゅごりゅごりゅ──……




「イイ、ヒリョウニナレヨー」


 ちゃっかり、肉と骨と内臓に分けて解体。

 食用には向かない内臓などは大型モンスター解体用のコンポスターに入れる。


 ゴブリンの残骸とミックスされて中々にイイ感じぃ! ふっふーーい♪



   ……じぇねーよ!!



「くっそー……やっちまった」


 一回目は予期せぬ事態であったとしても、二回目はもう明らかに隠す気満々で処分しちゃったよ。

 これは、やむを得ない事態……だけでは済まされない。


(さっさと通報しとけばよかったよ、とほほ……)


 ……ま、まぁ、あれだ。

 不可抗力ってやつ。


「オーク……。オーク───」


 目の前には、切り分けた大量の肉の塊……。


 ふむ、オーク肉かぁ。


 ダンジョンで採れたという、ごくごく少数が市場に出回るオーク肉は、最高級の国産黒豚を超える旨さだという噂だ……。


 実際に、前の会社で時々端肉をもらって食ったけど、確かに旨いし?


 まぁ……。

「か、家計の足しになると思えば───……いやいや、まてまて」



  ザ・違法やん



「……うーむ。でも、まぁ。む、無断でってのがまずいんだよなー」


 つーか、あれか? 


 もしかしてポンタのやつ、俺が「食べられる奴狩ってこい!」って言ったからか……?


「…………ま、まさかねー」


 と、とりあえず、今日の分は不可抗力として……。

 次はこうはいかない。


 だけど、今日のこの様子だと、ポンタまた絶対狩ってくるよね?!



 ……多分、

   絶対、

   必ず───あの犬小屋からぁ!!


 …………いやいや、あかんあかん!

「さ、さすがに3度目はまずいよな───。法律違反で、つ、つかまっちゃうよね?…………よし! いったんポンタは庭から隔離しよう」


 ほんとは癖になるといけないから、家にはあまり上げないようにしているんだけど、今回ばかりはしょうがない。


 イヤイヤするポンタを抱き上げ、玄関に段ボールの寝床を設えてやる。


「……いいかポンタ。俺がいい・・と言うまで庭に出入り禁止!」

『わ、わふ……?』


 多少は意味が通じたのか、ポンタがシュ~ンと項垂れる。

 つぶらな瞳で、きゅ~~~ん……


「う、ぐ……! そ、そんな目で見てもダメ!!」


 少なくとも、月曜になって、あのダンジョン管理局が来るまでは出入り禁止にしないとな。


 だから、あと二晩我慢してくれ、ポンタ──!

 ……代わりに骨々ガムをあげるから!


  ぽーい!


『ワッフ♪ わふわふわふ!!』


 へっへっへっへっへ……♪♪



 ──ちょろ~~~~い!



「……チョロいな君ぃ」

 とりあえず、骨々ガムでご機嫌のポンタをなでなでしておいて───。


「んん??…………そういや、青い肌のオーク・・・・・・・なんていたっけ?」





※ポンタの戦果:なんかめっちゃ青いオーク※


 《クラフト:オーク肥料(内臓のみ)

       オーク肉50Kg》

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