第4話「ダンジョン管理局」
「……ほんとにこれですか?」
「…………は、はい」
パトカーから降りて来たのはわりと近所の巡査だった。街角にある交番勤務の青年は胡乱な顔で高橋を見る。
……そんな目で見ないでよ。
「ふーむ。確かにダンジョンだ。……とりあえず、後続が来るまでは立ち入らないでくださいね」
「モチロンデスー」
つーか、入れるか!!
……どんだけ
「はははは! こんなダンジョン初めて見ましたよー」
俺もだよ……!!
「HAHAHAHA」
……なんで笑われにゃならんのよ?!
若干理不尽な思いに顔をこわばらせていると、ほどなくして───。
キキー!!
バン、バンッ!
「お、きたきた。高橋さん、お待たせしました」
巡査に言われるままにを現場の保全をしたあとで、次にやってきたのは、
住宅街に装甲車みたいなデカイトラックが次々に、バンバンと高橋家に乗り付けごった返す。
「ちょちょ?! ちょ……なにあれ?! え? 何あれ?!」
「あー……大丈夫ですよ。政府の部隊です」
……部隊???
い、いやいや!
いやいやいやいや!!
軍人やん?!
あれ軍隊ですやん?!
ザッザッザッザ!
ザッザッザッザ!!
ザッザッザ! とかいうとるで?!
「せいれーーーーーーつ!」
整列させとる───って、自衛隊やーーーーーーーん?!
東京の片隅。
住宅街に迷彩服にお兄さんがい~~~~っぱい!
「めだちすぎや~~~~~ん!」
『ワァォォォオン♪ へっへっへ♪』
高橋は嘆き、ポンタは知らない人がたくさん来て大はしゃぎ───。
「フォーメーションA、突入突入!!」
フォーメーションAちゃうわっ!!
あと、突入すんなしッ!!
それらが続々とやってきては───……高橋家の庭に突入し犬小屋を包囲していく。
さらには、一際巨大なNBC偵察車が住宅街の狭い道を塞ぐように乗り込み、厳重な防護服に身を包んだ自衛隊が降車してきた!
「ちょちょちょ、怖い怖い!! なに、それ怖い! こわーーーい!」
「はっはっは。ただの国家公務員ですよ」
笑って言うのは最初に来た巡査さんだけ。……あ、あとポンタも大喜び。
高橋はドン引きだ。
だって、
犬小屋を取り囲む自衛隊と警官隊……&防護服の重装備───おっふ、シュールだぜ。
「包囲完了! 総員気を抜くな!!」
「「「はッ!」」」ビシぃ!
───ハッ! ビシィ……とちゃうわ! 気合いれすぎやねん!!
どこから突っ込んでいいのかわからず天を仰ぐ高橋。
そんな悩める高橋のもとに一人の男性が足を寄せる。
「はいはい。ご苦労さん。……え~っと、家主の高橋はどちらですか? ダンジョンの場所を教えていただきたいのですが……」
「え? あ、はい」
最後にやってきたのは、黒塗りの車から降りて来た爬虫類を思わせる痩ぎすの眼鏡の男性だった。
重武装の自衛官に護衛され、妙に浮いた状態でやってきた男性は、ジロリと高橋を睨む。
「……ふむ? 通報者の高橋さんでお間違いないですか?」
いかにも「役所のお偉いさん」といった人物と対面する無職の高橋……。
おーう、YOUのスーツ姿が眩しいぜ……無職のメンタルに響くぜぃ。
「あ、その……はい。俺です。その……通報したダンジョンがこちらでして───」
「あーどーもどーも。ご丁寧に。では、まずはそのダンジョンを拝見します」
自衛隊と警察に包囲されるどこにでもある普通の犬小屋に案内する高橋。
犬小屋&自衛隊
…………え? なんなんこのシチュエーション?
え? 犬小屋にエライさん案内しないとダメなん??
……マジぇ??
「こ、これです。その……ポンタの家でして」
「ポンタ??」
『わぉん♪』へっへっへ……!
しーーーーーーーーん。
「……の家?」
「…………は、はい」
えっと~~……。
「……………………犬小屋ですよね? これ」
「ソーデスネ。犬の家ですね」
「……ふむ?」
当のポンタは、よくわかっていないのか、元来の人懐っこさを発揮して自衛隊やら警察に「へっへっへ♪」と尻尾を振っている。
しーーーーーーーーーん。
……やめて、みんな!
そんな目で見ないで!!
「ポンタの家。……ほうほう。で、その『犬小屋』がダンジョン化したと」
「…………そーです」
だ・か・ら、他にどう言えっつーの?!
どっからどう見ても、ダンジョンやろがい!!
つーか、ねぇ、ねぇ! なんでそんな目で見られにゃならんのぉ?!
ねぇぇぇ!!
「「「ぶふっ!!」」」
おい、笑うなよ!!
エライさん含めて警官と自衛隊の数名がこらえきれず噴き出している。
……なんか俺、悪いことしたぁ?!
「ぶぷぷぷ……! おっと、失敬。ふ、ふ~む。確かにダンジョン───ですね。ぶぷぅ!…………ダ、ダンジョン、だよね??? これ?」
「い、いやー、俺に聞かれましてもー」
「ま、まぁ。たしかにダンジョンの特性を満たしておりますね。内部は奥行きは不明。しかも、小屋全体が無敵の硬度……。たしかにダンジョン化で間違いないかと」
ゴンゴン! と、固い音のするポンタの家。
破壊不可能と言われるダンジョン化の特性を満たしているのか、ポンタの家は無敵の強度を誇っているらしい。
「……しかし、これ───……この入り口じゃ、内部に入ろうにも入れませんな。通常でしたら、危険度把握のため、『即応部隊』が内部を確認するのですが、その───」
背広の職員がチラリと目を向ける先にいる屈強な自衛官たち。
彼等も一様にフルフルと首を振る。
……そりゃ、入れないないもんね。
だって犬小屋だもん。
「ふ、ふーむ。参りましたね。こ、このケースは初めてで……。しかし、ダンジョンには違いがないので、とりあえず保全だけして……。あー……後日、調査器材をもつ研究機関に調査を引き継ごうと思います」
「は、はい」
うぅ……。晒し物になっただけで、なんも解決してないじゃん。
近所の人、めっさ見てる! そして、
……つーか、これ。ポンタの家、どーすんの?!
「うーむ…………。高橋さん、申し訳ないですけど、現状できることは何もありませんな。……今日のところはこれで」
「……え?! ちょ、そんな?!」
いや、このまま放置?!
まさかの放置プレイ?! おじさんとっても嬉───……じゃない!!
「……あと、ないとは思いますが、決して内部には無断で入らないようにお願いします───君、」
そういって、警察に声をかける背広の職員。
「どうぞ」
警察官の一人が法律の写しを差し出す。
ツラっと見ただけだが、無断立ち入りについての罰則事項がダラダラと。
ようするに、許可なくダンジョンに入った場合は法律違反ですよーとそういうことらしい。
……言われんでも、入らんわ!
つーか、入れないわ!!! 入口、何センチだと思ってんだよ!!
しかし、高橋の心の声などどこ吹く風。
「あー、あと、
そういって慇懃に礼をして名刺を差し出す目力さん。
名刺には係長の役職名があった。
「あ、ども───えっと、その名刺は……」
あいにく、高橋には名刺の返しがない!
「───いえいえ、結構ですよ」
うん、そうね!!
なんたって無職だからね!!………………泣いていい?
……結局、何の対処もないまま、ポンタの家には『KEEP OUT』と雑にテープが張られただけ。
なんでも、この一見おざなりの処置はというと、……ダンジョンは完全封鎖をすることができないんだとか。
入口部分を封鎖しようとしても、すぐに素材が腐食して意味をなさないという。
ゆえに、テープで封鎖してますよ、とアピールするだけなのだそうだ。
…………。
……。
えー……。これ、意味あるのか……。
「では、我々はこれで───」
「え、全撤収?! ちょ、ちょ……?! それはその───」
これで終わり?
「んんー? そうですが……なにか?」
え? そんなん近所の晒し者になっただけやん!!
なんかほら、ないの?!
シェルターを設置するとか、見張りとか───。
「いや、その……。ご、護衛とか置かないんですか? その、ほら無断で誰か入るかもしれないし───」
「はっはっは! 面白いことを言いますね、高橋さん。……犬小屋の護衛に我が国の『即応部隊』を置けと? はっはっは!」
い、いや、そりゃそうかもだけど───ほら、未知のダンジョンなわけで!!
「いやはや、はっはっは!」
……いや、笑ってないで!
「では、失礼します」
───結局、帰るんかい!!
「連絡してください」そういって、シンプルな名刺を押し付けると、ポカーンとする高橋を尻目に、さっさと引き上げていく職員。
警察も自衛隊も白けた雰囲気でゾロゾロと去っていく。
後に残されたのは、好機の目を向けるご近所の人と、「KEEP OUT」化した犬小屋だけ……。
……おぅふ、シュールだぜ。
結局その日は、ヒソヒソ話近所の人の好機の目に晒されながらも、愛想笑いだけして高橋は家に引っ込んだ。
ただでさえ無職の高橋さんと影で言われているのに、これ以上は勘弁してほしい。
……犬小屋がダンジョン化しまして───な~んて、さらなる属性はいらん!!
「あーもう!! 就活も失敗するし、散々な日だよ、畜生ッ!!」
そうして、高橋は涙を流しながらも、家を失ったポンタにはせめてもの慰めとして、缶入りドッグフードをプレゼントしてやり不憫を労ってやった。
「うんうん、ゆっくりお食べー」
『わふ♪ わふ♪』
大喜びのポンタ。
家はなくなったけど、知らない人が遊び(?)に来て大喜び。飯も豪華で大喜び。
ポンタは大満足で腹を見せていた……。
「はは……。俺ぁ、超疲れたぜ……」
かわりに高橋は、今日も今日とてカップ麺。
近所のスーパーで売ってるデカ盛りサイズの格安品だ。
……無職6ヶ月。
失業保険が切れ、超ハードモードに突入した高橋。
そろそろ食費を本格的に切り詰めないとやばい……。
野草でも採って食べようかしらん。と、半ば本気で考えつつ、今日くらいはぐっすりと眠るのだった。
「……犬小屋ですよね? これ」」
「うるせぇよ!!」
目を閉じれば、フラッシュバックする目力の言葉。
笑いをこらえる自衛隊と警察。
「うぐぅ……。痛い痛い! 思い出しただけでも、胸が痛~い」
だって、超恥ずかしかったんだもん……。
男の子だもん……。
───え? ポンタの寝床?
……ポンタには新しい段ボールに使っていないフワフワのタオルを寝床として提供してあげたよ!
めっちゃ喜んでたよ!
まぁ、しばらくは雨が降らない予報だし、新しい犬小屋を買うまでそれで我慢しておくれってことで……。
ぐー……おやすみ。
……しかし、ひと眠りした高橋の予想もつかないことが起ころうとしていた。
世界を揺るがしかねない大事件が───……ッ。
その……あの……、
なんていうか、その───。
─────────ポンタの犬小屋にて……。
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