第3話「通報しました」
「……おいおい、なんの冗談だよ。な、な~んでポンタの家が、ダンジョン化してんだ───」
『く~ん、く~ん……』
ダンジョン化現象は全世界で発生。
もちろん、日本各地にも深刻な影響を及ぼしていた。。
それは一体どういう仕組みかは、まったくの不明だが、
ある日、突如として『空間』が『ダンジョン』と繋がり、地下やその周辺の環境を飲み込んでしまうというものだ。
──有名どころでは『富士山迷宮』や『スカイツリー魔塔』、『新宿ダンジョン』なんかがある。
『富士山迷宮』などは、富士山がまるまるダンジョン化してしまったものであり、表面上は昔通りの富士山なのだが、五合目にぽっかりと空いたダンジョン入口のせいで、富士山の内部はすべてダンジョン化しているという。
その影響で、富士山表面を少し削っただけでもダンジョンの外壁にあたりそれ以上掘り進めることはできないのだとか。
(※ 注:ダンジョンの外壁は無敵の硬度を誇るのだ!)
ゆえに、内部を調査するには、入り口からトライするしか道はない……。
また、『スカイツリー魔塔』なんかはもっとすごい。
なんと──スカイツリーが丸々ダンジョン化しているという。
当然、ダンジョンゆえ、外壁は無敵の硬度。
ヘリで上部から突入しようとした調査隊もいたが、どこにも侵入口は見当たらず、もっぱら地上部の入口しか、今のところ発見されていない。
そして、『新宿ダンジョン』は元々ダンジョン並みの構造であった新宿の駅構内がそのままダンジョン化したものだ。
おかげで、さらなるダンジョンとして進化した新宿駅はまさに魔郷そのもの───。
ちなみに…………全てのダンジョン共通の事象として、その内部にいた人間は行方不明となり、今も発見されていないらしい───。怖ッ!
「と、とりあえず、ポンタが無事でよかったよ……。中で寝てたら今頃どうなってたやら」
愛犬の無事を喜び、わしゃわしゃと顔をもみほぐしてやると、不安そうな顔をしていたポンタが上機嫌になり、『へっへっへ♪』と喜びのヘソ天ポーズ。
「おー、いい子イイコ♪」
「へっへっへっ、わふわふ♪」
そうかそうか、腹が気持ちいいのか、
ナデリコ、ナデリコ
ワシャンコ、ワシャンコ
「わふわふっ! ヒャォォォオオン♪♪」
ブンブン尻尾を振りつつ全身で喜ぶポンタに癒されつつ──────「は!!」
いやいや、まてまてまて!!
「何やってんだ俺! ポンタの腹を撫でてる場合じゃない……! いかん。いかんいかん、一回落ち着こう───……ひっひっふー」
ひっひっふー。
ひっひっふー。
「ふー……おちついた」
つい現実逃避してしまったが、ポンタに癒されてる場合じゃない。
「ちょ、ちょっと待ってろポンタ! こんな時も、どんな時でも──」
そう。スマホだーーーー!!
現代の便利機器、スマホーだ!! スマホがあればたいてい解決。
料理に音楽、道案内。そして、法律相談に、通報ッッ!
──110番に、海上保安庁の118番までなんでもござれ!!
『クゥン??』
そう。ダンジョンが登場して10年……。
すでに調査は進み始めている。
実際に、世界では『軍』を中心に探索チームが作られ、日本でも自衛隊と警察、そして、近年では民間に開放されたダンジョンでは資源採取や調査のため多数のチームが作られていた。
彼らは「ダンジョンシーカー」または「冒険者」と呼ばれ、ここ数年でもっとも発達した職業の一つである。
(※ ちなみ高橋の元のブラック会社はその支援をする企業の下請けの下請けで、素材を解体したり加工するための会社だったりする)
「え~っと……。まずは、ダンジョンを発見した場合は……『ダンジョン␣発見』あったこれか、ダンジョン管理法───、」
当然ながら、ダンジョンが出現したとはいえ世界が滅んだわけではない。
滅んでいないなら、当然、ダンジョンは日常に組み込まれる。
だから、ダンジョン化が半ば世界の常識と化してきた昨今───それにともなう様々な法律が施行されているのだ。
なにせ、日本だけでも100程のダンジョンが確認されており、
それ以外にも、未発見のダンジョンが山奥や廃墟、あるいは海中などにあるとも言われているのだから、当然だろう。
そのため、未発見のダンジョンには発見次第報告に義務があるのだ。
なにせ、まだまだ仕組みもよくわかっていないダンジョンだし、内部は危険極まりないに違いない。
……ましてや、子供が迷い込むことだってありうるだろう。
ゆえに、そんな場所は管理せずに放置はできないということで、国は発見したダンジョンを厳格に管理しているのだ。
「え~、なになに───
ダンジョンを発見した者は、速やかに最寄りの警察または役所に届け出ること。
───この報告を怠ったものは罰せられることもある。
また、敷地内で発見された場合は、
内部調査のあと、等級をつけて、役所の管理下に置かれる───……うんたらかんたら。ふんだりけったり。
あと、通報しないと逮捕します。
大事なことなので二度言います。……逮捕します」
……た、逮捕??
え、なにそれ? 逮捕?!?!?
……こ、
…………こっわ!!
逮捕、こっわ!!
「え? なにこれ。怖い。なにこれなにこれ?! 自然にダンジョンができただけなのに通報義務なん? しかも逮捕されるのぉ?!」
……要するに、通報しないと犯罪らしいー。
そ、それはやだなー。
「……ただでさえ無職なのに、犯罪者とか人生終わるから勘弁してくれよ……」
通報後のその後の扱いについては、ケースバイケースらしく、詳しく記載されていない。
実際に『富士山迷宮』なんかは、入り口部分は国が厳重に管理しているが、そのほかの登山道は今まで通り使用可能なのだとか。
「う~ん……。とりあえず、通報するか──────……」
めんどくせー……。
だいたい、なんて言うんだろう。
『うちの家の犬小屋がダンジョン化しまして───キリッ』……ってか?
「…………絶対笑われる気がするな。つーか、俺なら笑うか、正気を疑うわー。……うわーマジで電話したくねーな。こりゃ、下手すりゃ、黄色い救急車呼ばれるレベルだぞ。───とはいえ、法律順守の良き日本人なのよね、俺ッ!」
うぐぐ……。
やむを得ん。
プップップップ───プルルル。
高橋はスマホの記載画面したにあった連絡先のリンクを押す。
どうも、最寄りの役所につないでくれるらしい。
数回のコールの後、電話口に出たのは若い女性の声だった。
ガチャ
「はい、こちら〇〇警察署、生活安全課です。ご用件はなんでしょうか?」
ビクぅッ!!
い、いきなりの直通かよ……。
しかも、警察署ぉ??!
つーか、ダンジョン案件って、生活安全課なの? 警察に
小市民の高橋は、警察につながったと知って思わずビックリ。
別に悪いことしてるわけじゃないんだけどね……。
それでも、勇気を振り絞って申告すると、
「あ、あ、え、え~っと。う、うちにダンジョンができたみたいで……」
「……はい? ダンジョン……。だんじょん…………。ダ───あぁ、ダンジョン化ですね!!」
だからそう言ってる……。
「しょ、少々お待ちください!……まず、ご住所とお名前をお願いします。その後詳しい話をお聞かせください」
「え、あ、はぁ」
あまり、警察に住所とか言いたくないけど、しょうがない。
正直に申告し、詳しい話とやらに答えていく。
発見時刻。
被害の有無。
立ち入り制限の説明に、
形状───。
「はい、では、そのダンジョンですが、そのような形状ですか? 後ほど職員が確認に参りますので───」
「犬小屋です」
「……はい、形状はイヌゴヤ───………………いぬごや?」
二回、聞くなや……。
「はい」
「……えっと、漢字で『犬』と書いてから小さい屋根の『小屋』ですか? その……ワンちゃんのお
むしろ、他に何があるのよ。
「……そーでーーす」
若干棒読み……。
「……………………ぶふっ!」
をい! 笑っただろ、今ぁ!!
「……あ、こほん。し、失礼しました! そ、それでは、至急職員が参りますので、それまでの間、絶対に立ち入りなどされませんようお願いします……あ、でも───犬小屋かー」
「そーですねー」言いたいことはわかる。
「……た、多分、入ろうにも、入れませんよねー。あ、ちなみに、ワンちゃんの大きさは? 大型犬ですか?」
「いえ、チワワとゴールデンレトリーバーの雑種なので、中型犬ですね」
「ぶふぉ!! ち、チワワとゴールデンって、ぶふふッ!」
をい!!
さっきから、ちょいちょい失礼じゃないか君ぃ!!
「あのー……もういいっすか!!」
「は、はい。失礼しました。まもなく職員が到着します」
あーそうですかー!
……なんで、善良な一市民の俺が笑われりゃならんのよ!!
っていうか、犬種かんけーないだろうが! もう!!
プツッ、ツーツーツー!
これ以上要件もなければ話すこともない。
高橋はスマホを切ると、職員とやらの到着を待つことにしたのだが、遠くからイヤーな音が聞こえて来た。
ファォー!
ファォー!!
ファンファンファンファンファン!
ちょ、
ちょちょ!!
「───ちょぉぉおおおお?! なんで? なんでパトカーなん?! しかも、サイレン全開じゃん!!」
『わんわん!! わぉぉぉおおおん♪ わぉぉぉおおおおおおん♪』
「喜ぶなポンタぁぁぁあ!!」
あーもう!!
一般人なら絶対にお世話になりたくないサイレンの音じゃん!
……よりにもよって東京の隅とはいえ住宅街でサイレンを鳴らされていい顔できるわけが───あああああああああ!
ざわざわ
ざわざわ
「ご、ごごごごご、ご近所にめっちゃ見られとるがな!!」
さっそく、近所のおばちゃんに捕捉される高橋家! 「あらまぁ、高橋さんチが」&「きっと何か、やらかすと思ってましてよーオホホホホ」……って、顔してるの丸わかりなんですけどぉぉおおおお!
ファンファンファンファンファン!
ファンファンファンファンファン!
『ワォォォォオオン♪ わぉぉぉおおおおん♪』
や、
やめてぇぇぇえええええ!!
高橋は絶叫し、
ポンタはサイレンの音に遺伝子の血が騒ぐのか、上機嫌に遠吠えで返していた───。
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