第2話「ポンタの家」

「……………………は??」



 ──コォォォォオオ…………。



 不気味な唸り声のような音を立てるそれ。

 空気がゆっくりと吸い込まれているようだ。


「え? なにこれ? え?」


 ある晴れた昼下がり。突如としてポンタの家に漆黒の穴が出現。

 入口部:高さ45cm、幅35cmの犬小屋だったんだけど───現在、これはポンタの家ではない。



   ……断じて、ない。



 ──こんな邪悪な漆黒の穴をもった犬小屋あってたまるか!!


 そう。

 あえていうなら、なんというか……。


 そのぉ……。


 ……。


 …これってば、

「ダ、ダンジョンじゃ、あーりませんか?」


 う、うん。

 そうとしか言えないもんこれ───。


 えー……マジ?

 マジでダンジョン、なの?


(…………い、いやいや、まさかまさか!!)


 だってこれ犬小───



『わんわんわん、わんわんお!!』


「ッ……?!」


 ───び、びっっっくりしたー!!

 いきなり吠えるなよ、ポンタぁ……。チビるわぁ……。


「わ、わかってるって……。い、今確認するから、騒ぐなって……」

『わんわんお!!』


 うるさい!……ビビってないわ~ぃ!!


 そ~っと、身をかがめる高橋。

 盛んに吠えたてるポンタに促されるように入口を覗き込むと、内部の暗さに目を顰める。


「ん~?……おいおい、なんだこりゃ? うわ、くっらッ……!」


 ただの犬小屋なのに、妙に暗い……っていうか、奥行きが見当たらない……。

 おかしいなと思いつつ、屈みこんでスマホのライトを点灯。


 おそるおそる、中を照らしてみたのだが……。





 ──ふっかッ!!




 ていうか、

 ……ふっかッッぁぁああ!!


「深ッ!! ふっかぁぁぁああ! え? なにこれ?! 暗ッ! 深いッ!…………おいおい! ふっっっかいなー、おい!! ポンタぁ、お前の家どんだけ広くて深いの?! えぇーお前のスィートホームはどこいったんだよ?!」


『く~ん……』


 ポンタを振り返りつつも、中をもう一度確認。

 そこにあったのはどこまでも続く漆黒の空間で、獣臭かったポンタの寝床はどこにもなかった。


 いや、臭いことは臭いんだけど……。


 たしか、段ボールとボロボロの毛布と、ポンタがどこからか盗んできたガラクタがたくさんあったはず……。


「……え? え! ええええ?! マ、マジでなんなん?! なんなん、これ?。ポ、ポンタなにやったん?! お前の小屋ダンジョンだったの~ん?!」


 ……って、んなわけない。ないない!!

 少なくともつい最近までは普通の犬小屋だった……はず。


『わふん……』


 寂し気に項垂れるポンタの頭を「よしよよ、よ~し」と、とりあえず撫でてやるが、実に悲しそうな目で高橋を見つめてくる。

 ……とはいえ、そんな目で見られてもどうしようもない───っていうか、この穴なんだよ?!


「ちょ、ちょっとごめんな」


 再トラーイ!!


「……そぉい!!」


 ポンタに一言謝りを入れてから、その辺に落ちていた石をポ~ン! と投げ入れると───…………。



   カツーン、カァーン、カァーン……カンカンカンカーーーーーーーーン……。


   ──カァァァァァ……………………ン…………………………。




   しーーーーーーーーーーーーん。




 …………。

 ……。


 …。


 ふ、


ふっかぁぁぁあああああ!!??」


 ───ふっっっかぁぁぁぁあああ……!


 ──ぁぁぁああ……!!


 ─ぁぁ…。


 ……と、どこまでも反響する音に高橋の顔は引きつった。



   「…………おっふ」



 …あかん。


 こ、これはあれだ……。

 間違いない……。


「ダ、ダンジョン化じゃねーか……」


 そう。まごうことなきダンジョン化。



「───じょ、冗談きついぜ……」

 わ、我が家にダンジョンだと?……よりにもよって、無職の高橋家に『ダンジョン』出現んんん……??



 ……それは、まぎれもなく世界を一変させた───ダンジョン化現象そのものであった。


 そう。ダンジョン化現象──それは、かつて人類に多大なダメージを与え、膨大な被害をもたらした未曽有の大災害のこと……。



 この世界と異世界をつなぐ、夢と悪魔の架け橋────ダンジョン……。



  そ、

   それが……。


「………………それが、な、なーんでそれがウチの『犬小屋』にぃ?」


『く~ん……』





 ───どういうわけか、犬小屋がダンジョン化しちゃったんですけどぉ……?

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