ゆめ配達局のお正月

つーお.tzt

ゆめ配達局のお正月

 すがすがしく澄んだ夜空の、そのまた上にゆめ配達局はありました。

 ゆめ配達局は、毎夜のこと、地上に住む人々が見る、ゆめを配達しており、

たくさんの妖精が働いておりました。

 毎年お正月の時期になると、初ゆめをわんさか届けなければいけないため、

ゆめ配達局は大賑わいでした。

 あるお正月のことです。ゆめ配達員の、のっぽな妖精と相棒の空飛ぶ船は、

一通りゆめの配達が終わり、雲に腰かけて一服しておりました。

「船、今日配る予定のゆめはもうないかい」とのっぽな妖精は、いいました。

「はい、もうすっかりありません」と空飛ぶ船は、いいました。

 のっぽな妖精は、ひとつ、うなずきました。

 そうして、地上をながめておりますと、一軒の家が目に付きました。

 その家の窓からは、ひとり寝入りながら、寂しそうな小さな子どもの姿が見えたのでありました。

「だが、あの家の子には、まだゆめが届いていないようだ」とのっぽな妖精は、

いいました。

「はい、あの子には届けるゆめがありませんでした」と空飛ぶ船は、いいました。

「あの子といっしょに寝てくれる親はいないのかい」とのっぽな妖精は、

いいました。

「はい、あの子にはいっしょに寝てくれる親はおりません」と空飛ぶ船は、

いいました。

 お正月に楽しいゆめもなく、いっしょに寝てくれる親も居ない子を、のっぽな妖精は、不憫に思いました。

「ようし、船よ。局へ戻ろう。そうして、配達予定のゆめを、少し分けてもらって、まとめて、あの子に届けるのだ」とのっぽな妖精は、いいました。

「はい、わかりました。ですが、ゆめを分けてもらえるでしょうか」と空飛ぶ船は、いいました。

「心配は要らないさ。わたしたちは地上の人々が安心して夜を過ごすためにいるのだから。きっと分けてもらえるさ」とのっぽな妖精は、いいました。

 それから、のっぽな妖精と空飛ぶ船は、雲から飛び立つと、まっすぐにゆめ配達局に向かいました。

 

 街はいまだ、静かな眠りについていました。

 ひとり寝入っていた子は柔らかな笑みを浮かべていました。

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