第27話 打ち明け

 妃乃への復讐を誓った、翌日。

 明音と優良に、話したいことがあるから放課後に少し時間が欲しい、と伝えた。

 そして、そわそわしてしょうがない時間が過ぎて、放課後。

 二人を、放課後には滅多に人が通らない屋上前の踊り場に連れてきた。


「わざわざこんなところに連れてきて……もしや水琴、あたしたちを亡き者にでもするつもりなの?」


 明音がのほほんとした口調で冗談を言うが、わたしはそれに陽気に返す余裕もない。自分のことを打ち明けよう、と決めたものの、やはり不安が大きい。


「そんなことするわけないでしょ。単純に、他の人には聞かれたくないだけ」

「そっか」

「……緊張してるね、瑠那。顔が強ばってる」


 優良に指摘されても、苦笑するしかない。緊張しすぎて吐きそう。

 この二人になら、本当のことを言ってもきっと大丈夫。そう思う部分もあるのだけれど、どうしても不安が拭えない。


「それで、話って? 二人同時に呼び出してるんだから、ここで愛の告白ってことはないよね?」

「それもないってば。もー、何言ってるの」


 明音の口調に急かす雰囲気はない。自分のペースで話していいよ、という感じに聞こえて、少しだけ落ち着く。


「……二人とも、もう少しだけ待って。すぐに来るから」

「すぐに来る? 誰が?」

「……すぐにわかるよ」


 気まずい感覚になりながら、待つこと三分程。


「ごめん、お待たせ」


 妃乃がやってきた。その顔を見るだけで、緊張がかなり軽減された。


天宮あまみやさん?」

「なんで、天宮さんがここに?」


 明音と優良が首を傾げる。

 妃乃は何も言わず、わたしの隣に並んだ。

 たったそれだけのことなのだけれど、察しが悪いわけではない明音と優良は、ほぅ、と感心した顔になる。


「えっと……とりあえず、最初に報告というか、だけど」


 二人はもう、状況を察している。それなのに、核心を述べるのはすごく怖かった。すぐには言葉が出てこない。

 何度か呼吸を繰り返す。

 そして、わたしは妃乃の左手に、自分の右手を重ねた。

 妃乃に触れているだけで、一歩を踏み出す勇気が沸いてきた。


「わたしと妃乃、付き合うことになった。……恋人として」


 その言葉は、二人にとって予想通りだったはず。二人とも驚いた顔はしないで、ただふわっと優しい笑みを浮かべてくれた。


「そっか。おめでとう」

「良かったね」


 端的だけれど、心からわたしたちの関係を認めてくれているのがわかる。

 ここでようやく不安が解消されて、全身から力が抜ける。その場に崩れ落ちそうだった。妃乃が固く手を握ってくれて、どうにか姿勢を保てた。


「……二人とも、受け入れるの早すぎじゃない? 女同士なんだけど……」

「まぁ、水琴はそういう人なんじゃないかって感じてたし」

「ああ、やっぱりなぁ、って」

「え? わたし、そんな雰囲気出してた? そういうの、出さないようにしてたはずなんだけど……」

「うん。出てはいなかったよ。でも、水琴がそういう意識でいたから、水琴から恋愛についての話をしてくることもなかった」

「たぶん、過ごす時間が長くなければ、特に気にもならない些細な違和感。私と明音だから、もしかして? って気づいたんだと思う」

「……その感じだと結構前から違和感はあったの?」

「半年くらい前からかな? 確信持てないけど、もしかして? とは思ってた」

「私は割と最近。高二になってからくらい」


 明音と優良の答えに、一瞬頭がくらっとなる。


「そ、そうだったの……。誰にも変に思われてないと思ってたのに……」

「水琴はそんなに隠し事上手くないよ」

「少なくとも、隠していることはわかる感じ」

「そう……」

「ま、とにかく良かったね」

「うん。良かった。色々と悩んでるかもって心配でもあったから、安心した」

「う……そんなに優しい言葉をかけられると、今まで秘密にしてきた後ろめたさが……」

「ふっふっふ。実はそれが狙いなのさー」

「私たちにまで秘密にしていたこと、ここで目一杯悔いるが良い」

「ううー……罪悪感で胸が潰れそうだ……」


 二人の冗談めかした雰囲気に合わせ、わたしも大袈裟に心臓付近を押さえる。

 二人もケラケラと笑ってくれたから、わたしとしては満足。


「良かったね、瑠那」


 妃乃には、この結果も予想通りだっただろう。平然とした様子が憎らしい。


「天宮さん。うちの子をどうか宜しくお願いします。ちょっぴり隠し事もしちゃうけど、根は素直でいい子なんです」

「人を傷つけるような真似はしない、とっても優しい子なんです」

「うん! わかった! 任されよう! 瑠那は私が幸せにするよ!」


 親面し始めた二人の言葉に、妃乃も軽いノリで返している。


「おお……水琴の恋人とは思えない陽気な笑顔……」

「天宮さんの光で、瑠那が黒いシミみたいになってる……」

「二人とも、日頃からわたしをなんだと思ってるの!? なんか扱いが酷くない!?」

「本当に仲がいいね、この三人って。羨ましいなぁ。私と瑠那はこういうことになったから、たまには一緒に遊んでよね?」

「うん。いいよ。天宮さんなら、いつでも」

「明日にでも一緒に遊ぶ?」

「いいの? 遊びたいな! 瑠那もいい?」

「……いいよ」


 そういうことで、わたしたちは明日の土曜日に一緒に遊ぶことになった。

 少なくとも、この二人の前では、わたしが同性を恋愛対象にしていることも、妃乃と付き合っていることも、隠す必要がなくなった。

 小説を書いていることについては……また追々話せばいいかな。一度に色々と聞かされるのも大変だろうし。何が大変とか、知らないけどさ。

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