第28話 報告
その日の夜、銀子に状況を報告した。
『今日、友達二人に、例の子と付き合ってるって話した。案外あっさり受け入れてもらえてびっくりしたわ。そもそも、わたしの恋愛対象は女の子だってこともなんか察してたみたい』
『え? マジで? すげー。意外と寛容なんだな。そういう時代なのか? あたし、身近な人にはそういうの全然言えてないし、これからも言える気がしないや』
『わたしは恵まれてるよ』
『ほんとほんと。羨ましいわ。ってか、漫画のストーリーとか歌詞の話じゃなかったっけ? そっちはどうなったん?』
『それはまぁ、引き受けるんだけど、例の子に、一番の問題はわたしが同性が好きだって打ち明けるかどうかでしょ? って言われて、そっちを先に解決した』
『なるほど』
『わたしがそういう人だって認識してくれてたら、わたしがどんなストーリーとか歌詞を作っても大丈夫だろうって。わたしが普段から小説書いてることはまだ話せてない』
『それも話すん?』
『迷ってる。恋愛対象がどうのって話とは別方面ですごく気恥ずかしい』
『確かに。あたしは百合恋愛以外のファタジーとかも書いてるけど、単純に身近な人に自分の小説読ませるの恥ずいわ。今後も、誰にも言わないで過ごすかも』
『だよねー。読ませるつもりはないけど小説は書いてるって伝えるのはありかな?』
『それなら書いてることも言わない方がいいんじゃね? 何で読ませてくれないの? 友達じゃないの? とか言われるべ』
『そうかも』
『友達だからって、自作小説を無条件に見せられるわけじゃないんだっての。頭の中覗かれるようなもんだし、身近な人だからこそ見せられないって思うよ』
『だよねー』
そうか、とふと思う。
わたしが妃乃に頭の中全部覗かれることをすぐに受け入れられたのは、既にそういうことをしてきた下地があるからかもしれない。
小説という形ではあるものの、わたしの考えも嗜好も、他人に晒し続けている。
慣れもあるだろうし、わたしのありのままの部分が受け入れられることの喜びも知っているから、妃乃に覗かれてもいいと思えている。……のかな?
『あたし、やっぱりひまわりがいて良かったわ』
『どうしたの、急に』
『あたし、周りに同性愛者のことも、小説のことも話せてないし、今後も話せる気がしてない。でも、ひまわりとなら何でも話せるおかげで、変な孤独感とかはない。すげー助かってるわ』
『それなら、つい最近までわたしもそうだったよ。ありがと』
『例の子と、上手くいくといいな』
『うん』
また、ふと思う。
銀子のことだから、きっと素直に祝福してくれているのだろう。
でも、もしかしたら、嫉妬している部分もあるのだろうか。わたしだけが恵まれた状況で。
『わたし、恵まれすぎかな? 恋人ができて、友達にも受け入れてもらえて、銀子もいて』
『恵まれてるとは思うよ。でも、恵まれすぎってことはないんじゃないか? あたしたちみたいのじゃなければ、ごく普通のことじゃん。恋人がいることも、友達に恋愛事情を理解してもらうことも、ネットで友達がいることも』
『確かにそうだね』
でも、銀子はどう思ってる? わたしのこと、憎らしくない?
続けるか迷っているうちに、銀子から返事。
『あたしのことは気にすんなよ。あたしに合わせてひまわりが自分の幸せを放棄する必要はないし、変に気に病む必要もない。あたしは、ひまわりの人生の足かせになんてなりたくない』
『そっか。わかった』
銀子はとても立派で、心優しい人だ。
異性と恋愛する人だったなら、きっと、恋人なんていくらでもできるし、友達にも隠し事をせずに良い関係を築けたのだろう。
銀子と深い繋がりを持てるのがわたしだけなんて、贅沢なことだ。
『銀子には必ず、いい相手が見つかるよ』
『そう願うよ』
ぼちぼちやり取りも終えて、あとは宿題をしたり、小説を書いたり。
それと、一日の終わりには妃乃から電話が来て、十分程度おしゃべりをする。
『私と離れてから何してた? 全部教えて?』
「急に束縛強い系の彼女みたいにならないでよ。怖いじゃん」
『ねぇ、お互いの居場所がわかるアプリ入れようよ』
「別にいいけど」
『そこはあっさり受け入れないでよ。話が盛り上がらないじゃないの』
「そう言われても、妃乃はわたしのこと全部わかるんだから、今更居場所を知られるくらい気にしないよ」
『じゃあ、瑠那の部屋に盗聴器仕掛けさせてよ』
「妃乃が用意するならそれでもいいよ」
『だから! あっさり受け入れないでよ! 盗聴器もご自由に、なんておかしいでしょう!?』
「そんなこと言われたって、もうわたし、妃乃に全部知られるのも受け入れてるもん。いっそ常にライブ配信しようか?」
『そこまでしなくていいよ。瑠那は瑠那でプライベートを持っていい』
「けど、将来的に一緒に暮らすことになったら、プライベートも何もないよ」
『それはそうだけど……』
「妃乃が見たかったら、わたしの全部、見せるよ。わたしはそれくらい妃乃のことが好きだよ」
数秒、妃乃が押し黙る。
『……ばか』
今、妃乃はどんな表情をしているのだろうか。すごく見たい。今は音声通話のみだけれど、今度からはビデオ通話にしようかな。
「妃乃がわたしをそうさせたんだ。責任は取ってもらう」
『……うん』
「高校卒業したら、一緒に暮らそ」
『……うん』
「約束だよ?」
『わかった。約束する』
「へへ。妃乃と一緒に暮らせるの、楽しみ」
『……私も』
「早く卒業したいなぁ」
『そうだね』
「一日の終わりには毎日キスしようね」
『……言っていて恥ずかしくない?』
「妃乃相手なら平気」
『そう。まぁ、日頃の妄想と比べれば、大したことではないか』
「そういうこと」
妃乃とおしゃべりしているだけで、心がふわふわと軽くなる。このまま空にも飛んでいきそう。
しばしおしゃべりが続いて。
『また明日ね』
「うん。また明日」
『おやすみ』
「おやすみ」
一日の終わりに、妃乃の声を聞けるだけでも、とても幸せだ。
充実して、恵まれていて、なんだか怖いくらい。
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