第23話 なんで?
せっかく恋人同士になったわたしと妃乃だけれど、学校ではそれを公表していない。あくまで友達としての距離を保ちつつ、程々に交流するだけにしている。
「同性同士の恋愛に多少は寛容になってはきているけど、やっぱりまだ自然に受け入れられる程のものじゃない。変に好奇の目で見られるのも面倒だし、学校では秘密にしておこう。それはそれで燃えるし、構わないでしょ?」
そんな妃乃の言葉に従った形だ。
ちょっぴり寂しい気持ちもあるけれど、確かに皆には内緒の恋というのも面白いというか燃えるというか。密かに目を合わせてふふっと微笑み合う感じもキュンとくるので、これはこれであり。
なお、友達の
そんな関係だから、わたしと妃乃がいちゃつけるのは基本的に放課後。主に妃乃の家にわたしが立ち寄り、しばらく一緒に過ごす日々。
残念ながら、妃乃は本気でわたしを焦らし続けるつもりらしく、どれだけ脳内をピンク色の妄想で一杯にしようとも、妃乃からわたしに手を出すことはない。いっそ言葉にして誘っても「まだダメ」と素気なく断られる。生殺し過ぎて辛い。せっっかく密室に二人きりの時間もあるというのに。
そうするうちに時は過ぎ、中間試験などもこなしていると、あっという間に六月に入った。
もうすぐ梅雨入りかという時期の、学校での昼休み。いつもの三人で食事をしていると、美術部員で落ち着いた雰囲気の
「漫画を描いてみたいんだけど、ストーリーとか全然思い付かないんだよね。
とっさに、わたしが小説を書いていることがバレたのではないかと不安になった。
「な、なんでわたしに頼むの? わたしだってそんなストーリーとか思い付かないよー?」
「別にちゃんとした奴じゃなくていいんだよぉ。自分でやると本当にわけわかんないものにしかならないし、ぶっちゃけなんか気恥ずかしくてしょうがないから、誰かにストーリーを作ってほしいの」
「……わたしだって気恥ずかしいじゃん」
「そこは友情パワーで乗り切ってよ」
「この壁は友情パワーでどうこうできるものじゃないよ。最低限、樋口一葉の力が必要だってば」
「現金な奴だなぁっ。もー、せめて平等院鳳凰堂の力でなんとかしてよー」
「せめての意味わかってる!? そこは夏目漱石っていうところでしょ!?」
「細かいこと言わないでよー」
「細かくないって。鳳凰堂と夏目さんには百倍の差があるじゃないの」
「そこんところは友情パワーでどうにか」
「どうにもならない」
「今度、水琴の似顔絵描いてあげるから」
「自分の似顔絵なんていらないよ……」
「百割増しで綺麗に描いてあげるから」
「それはもはや、わたしとは似ても似つかない空想上の生き物だって……」
呆れていると、スマホがメッセージを受信。こういうタイミングだと、妃乃からである可能性も高い。ちらっとだけ見てみると、やはり妃乃で。
『瑠那の似顔絵、欲しい』
むぅ……。
同じ教室内だから、わたしたちの会話が聞こえていたらしい。三メートル程離れた席に座る妃乃の後頭部をじろりと睨む。そっちはそっちで、友達との会話に集中すればいいものを。
妃乃にこういうこと言われると、わたしは従う他ないのだ。悔しいけど、わたしは妃乃の期待に応えたくなってしまうのである。
「……似顔絵、ね。普通に描いてくれるなら、とりあえず簡単にストーリーを作るだけならいいよ」
「え? いいの? なんでそんな急な心変わり? 今の、誰から?」
「べ、別に誰からとか関係なくて、明音が困ってるなら仕方ないなぁって、それだけ!」
「……まぁ、それならそれでいいけど。ありがとね」
明音は納得していない様子。急に承諾するのではなく、もっと焦らして、しぶしぶといった風を装えば良かった。変に妃乃が絡んできたので答えを焦ってしまった。
これから気をつけよう……。
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