第22話 夜
『恋人関係が成立してお泊まりまでしたのに、何もしてないなんて嘘に決まってる! なんであたしにまで嘘を吐くんだ! 見損なったぞ!』
日曜日の夜。やたらと憤っているのはもちろん銀子で、わたしの進捗報告がお気に召さなかったらしい。
マイノートPCの前で、わたしはやれやれと溜息。
『嘘じゃない。例の子が何もしてくれなかったの。添い寝しただけ』
『そんなの信じられるか! 高校生の女女がそんなソフトな関係で満足できるわけないじゃないか!』
『わたしだってしたかったよ! めっちゃ期待してたよ! だけど例の子が意地悪して何もしてくれなかったの! 焦らされてるのが好きでしょ? とかわけわかんないこと言って!』
思い出すだけでも腹が立つ! でも好きだ! 色々と納得はいかないけどすごく好きだ!
『それはつまり、付き合いたてのカップルがいきなり高度な焦らしプレイとか放置プレイをしちゃったってこと?』
『……かもしれん』
『うわ、なんか進んでないのか進んでるのかよくわからんことになってんね』
『そうだよ、全く。わたしはもっと普通に恋人関係を進めたかったのに』
『例の子、大丈夫? 今までの印象に反して、意外と恋愛については拗らせてない?』
『……大丈夫だと信じてる』
『有史以前から、恋は盲目、って言われてるよ?』
『なんと言われても構わない。なんだかんだわたしは幸せなんだから』
『それが盲目だって言ってるんだ、ばか。実はヤバい奴だったらちゃんと逃げろよ? ローターつけて学校来てね? とか言われても従うなよ』
『わたしの恋人をなんだと思っているんだ。そんなこと言うわけないじゃないか。せいぜい、下着つけないで学校来てね、くらいだよ』
『そんなこと言い出す奴も十分ヤバいだろ!』
『大丈夫。わたしがちゃんと、少しずつまっとうな人間に導いてあげるから』
『それ、ダメ男に引っかかる残念女子の思考! ダメな奴はどれだけ頑張って叱ったってダメなままだから! 今のうちに引き返せ! まだ間に合う!』
『大丈夫。わたし、あの人のにならもてあそばれたっていいの。それだけ強い気持ちで恋できたっていうだけで幸せだから……』
『自分の不幸をかっこよく言い換えて肯定しようとするな! 幸せになれない恋なんてただの自傷行為だ! 正気に戻れ!』
メッセージが白熱してきたところで、そろそろ本気で銀子が心配しそうだから区切りを入れることにする。
『冗談はこの辺にして。本当に大丈夫だよ。例の子はそういうヤバい人じゃない。強い人に見えて、実は心にすごく弱い部分も抱えてて、ちょっとだけ意地悪なだけ。すごく優しいし、わたしが本気で嫌がることはしない』
『……だったらいいけど。本当に気をつけろよー? 初めての恋人だからって、舞い上がりすぎちゃダメだ』
『わかってる。すごくふわふわした気分だけど、冷静な部分もちゃんと持ってる。安心して』
『……これからも、話せる範囲でいいからあたしにも進捗話せよ。異常を感じたらガチでとめるから』
『ありがと。心配してくれて』
ネット上の付き合いしかないから、正確なところはわからない。でも、銀子は本当に優しい子で、とても信頼できる。銀子に出会えて本当に良かった。
『ってかさ、あたしと連絡取ってて大丈夫なん? 浮気とか疑われない?』
『例の子には、銀子とはこれからも連絡を取るって伝えて、許可も取ってある。わたし、銀子と縁が切れるなんて絶対嫌だもん』
『嬉しいこと言ってくれるじゃないか。あたしと例の子、どっちが大事なんだい?』
『どっちも大事だよ。どっちかなんて選べない。こんなにも大切に思える人が二人もいるなんて、わたしは幸せ者だ』
『……はいはい。文字だからって恥ずかしいこと平気で言うな』
『いいじゃん。こんな関係で、こんな場所なんだから、リアルで話せないことを目一杯伝えちゃおうよ』
『ばーか。ひまわりって本当にばか。あたし、ひまわりよりばかな奴に会ったことないわ』
『それ、単に銀子の交友関係が狭いだけじゃない?』
『言ってはいけないことを言ったな!? よし、決闘だ! お互いの好きなところを言い合って、先に何も浮かばなくなった方が負けだ!』
『その決闘は恥ずかしすぎる! 流石にやめてー!』
銀子と戯れていると、時間があっという間に過ぎていく。
お互い物書きだから文章はいくらでも書けるし、変なアイディアも浮かぶから、延々としょうもない話が続いてしまう。
こんな時間も愛おしい。恋とか愛とかじゃなく、幸せだと思う。
銀子はこんなに楽しくて素敵な人だから、銀子にも早く恋人ができてくれればいいと思う。
……でも、そうしたら、銀子はわたしとの交流をやめてしまうのだろうか? それは、正直嫌だな。
銀子を失いたくない。
これは、わたしのわがままかな?
銀子の幸せを願い、その先にあるかもしれない別離に胸をざわつかせる。
わたしたち、これからどうなるのかなぁ……。
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