第12話 ヤクザ
テーブルの上で寝転びくつろぐ二体の悪魔に視線を向けた。
「こーゆう奴とは縁ないな」
「あたしも」
「どっちもダメだと、姿位なら俺がスケッチしてやるよ。ペンあるか」
「おお! では使ってください」
イガリは俺にボールペンと手帳を差し出してきたのでそれをパラパラとめくり空いているスペースに悪魔の絵を描きこむ。こいつらのデッサンはシンプルなので筋肉にしか縁のない俺でも模写はしやすい。
「あっさん絵が上手いんですねぇ、そっくりですよ」
トミイが横からのぞき見して言い、それを聞いた悪魔二体が俺の身体をよじ登り確認しにきた。
「ふざけんな! アマエチャンはもっとグラマーだろうが!」
「ひぃっ、すいませんすいません!」
「断固抗議なの」
「デモ活動は政府の許可を取ってからやってくれ」
「なるほど……。これが悪魔……。できれば私も自分の眼で実物もみて見たかったものです」
「それで、俺は今日から仕事なのか」
「やる気まんまんですね、では早速なんですがヤクザの事務所を一つ潰したいと考えています」
「どこにある」
「この真上ですよ」
イガリは天井に向け指を差した。
「今すぐ殺してくる」
「待った、待ってください。私も行きますよ。それと」
ソファから立ち上がり、さらなる階段の先へ向かおうとしたが呼び止められた。
「どうした」
「お名前を伺うのを忘れていました」
「悪魔のおっさんだ」
「コードネームですね、たしかに本名を知られてはマズイ事態になりうる可能性もありますからね。その方が良いでしょう。聞かないことにします」
「どうも、じゃあいくぞトミイ」
「なな、なんでですか」
「またヤクザが黒くなるかもしれない、次は譲ると言ったろ」
悪魔になっても譲り合いの精神は忘れたくないものだ。
「い、いらないですほんとに!」
「遠慮するな」
「あなたは自分を悪だと言いましたが、私には正義の化身に見えますよ」
俺は絶対にヒーローではない、幼少期の頃に憧れるヒーロースーツの中に入ってるのがイケメン俳優などではなく、ただの着ぐるみを着た赤の他人であると誰もがすぐに気づく。そして成長の過程で趣味から外れていく。家族に連れていかれてたショッピングモールでヒーローショーを見ていた俺はずっと真顔だったという。みんな楽しんでるよ、と母が言ったのだけは覚えている。当時、自分自身がなにを考えていたのかは定かではないが楽しんでいた記憶はない。階段を進む、
鉄製のドアを無言で開けた、今度こそノックの必要ない相手だ。部屋の中は普通の会社の事務所みたいになっている、以前入っていた会社の備品をそのまま流用しているのかもしれない。明らかにカタギではない容貌の男が五人、テレビを見ながら仲良く談笑していたようだが開いた扉の先に居る俺の姿に驚きを隠せていないらしく目を丸くして固まっている。その中で一番の下っ端にみえる茶髪の男が立ち上がり両手をポケットに手を突っ込みながら近づいてきた。
「おじさーん、なんのようですか」
「ここってヤクザの事務所で合ってるんだよな」
「だったらなんだよ」
「アマエチャンこいつらを拘束しろ」
「おう」
「あ?」
右手を上方へ掲げると茶髪の視線はそちら側に移る、がすぐに自分の足元に視線を落とす。足元では毛糸みたいに細くなった赤い悪魔が
「うわ、なんだ」
ポケットから手を引き抜こうとするが出て来ないし、歩くこともできない状態に陥った茶髪は怯えた表情で俺を見た。一番活躍してきた相棒の姿を思い浮かべ、俺の右手へと現れるのを感じると同時に強く握りしめて、振り下ろした。
「ぐぇ」
当たり障りのない
「てめええ! なにしてんだおい!!!」
木彫りのクマを凶器にするのを諦め肉弾戦に持ち込む事にしたらしいが、そのころにはもう赤い悪魔が全身を覆っていて目を白黒させるしかない。赤い悪魔はデブのたるんだ腹の両端を思いっきり外側に引っ張っているもんだからカバみたいなクマの絵がビリビリと音をたて縦に真っ二つに裂けていき両端が血で滲む。感謝のキモチを込めて太った男の頭にもネイルハンマーを叩き込んだ、ツーダウン。
拳銃をこちらに向けてくる髭面の奴がいる。丁度点検中だったのか、運がいいことに初めから所持していたらしいのだが残念ながら引き金部分は固定され動かない。安全装置に異常があるのではないかと考え触ろうとするがそれも動かない、異常はないはずだとなんども確認しているがこの状況のせいで頭がまわらないらしく最後の手段として俺に向け拳銃を投げつけようとする動作をしたが拳銃は手から離れて行かない、くっついたままだ。赤い悪魔が拳銃と髭面の男の指一本一本に絡みつき、それぞれの指をぐちゃぐちゃにひん曲げていた。側頭部目掛けて殴打、昏倒。スリーダウン。残り二人。
「どういう目的なんだ、おい! なんなんだよ!」
グラサンの男が叫ぶ、立ち向かってくる気力もないらしい。ただ腰を抜かし喚きちらす姿に赤い悪魔もため息をつく。
「死んでほしいんだ」
お喋りに費やす時間ももったいないのでハンマーを振り下ろす、残り一人。最後の一人は厳つい顔の白髪の男でパイナップル柄のアロハシャツを着ていた。一番奥の方に居て、俺に背を向けて棚に置いてある何かを脂汗をかきながらも引き抜こうとしていた。息切れもしている、運動不足だな、俺を見習ってほしい。こちらに振り向きもしないので後ろから近づき覗くと、引き抜こうとしていたのは黒漆塗りのニホントウだった。
「おっ、欲しかったんだよそういうの」
「てめぇ、ただで済むと思ってんのか」
「思ってるからやってるんだよ」
「金は置いてねぇぞ……。あがっ」
赤い悪魔が山で死体を処理した時のように両腕を巨大化させ、白髪のアロハシャツの男の身体を握りしめて持ち上げる。白髪アロハは浮かび上がった足をばたつかせながら叫び声をあげていたが、俺の前で首を垂れさせられると観念したのか静かになる。
「じゃあな」
頭にハンマーを叩き込んで停止空間を解除。テレビから多数の笑い声が聞こえる、ちょうどお笑い芸人がとっておきのボケを披露したらしい。こいつで殴れば立ち上がる者はいない、俺の筋力も合わさり最高の威力を発揮してくれている、カンフー映画の悪役みたいに打ちのめされた後に何度も立ち向かってはこない。視界にはもう立ち上がることの無い五人の死体が転がっていた。
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