第8話 行方不明

「透明になれるってことはトミイも前払いとかなんとかで最初に能力もらったのか」

「はい……。それでほんと舞い上がってしまって……」

「おうおう、早速悪魔のウソがバレたようだな。俺だけ特別みたいに言いやがって」

「相手を傷つけない嘘ならついてもいいって、よくいうだろ?」

「まぁな、じゃあトラックで殺した後に貰った能力は?」

「なんか、存在感がなくなるとかいうのです……」

「道理でね」


相手の能力を教わったので俺の能力も説明すると、トミイはしきりに大袈裟な相槌を打っていた。説明が終わるころにはからあげの山盛りはいつの間にか消滅していた。俺は自分の魔法を使っていない、単純に赤い悪魔の胃袋に消えたのだ。


「コウテンもオサカナたべたい」

「外で食べてるものが急に消えてたら変でしょ……。ダメだって」

「おい、言われてるぞ」

「知らねぇなぁ」

「じゃあおうちにかえろー」

「ええ……」

「ま、とにかく連絡先交換しておくか」

「はっはい」

「一人ってのも心細いしな、俺達もお互いに頑張ろうぜ」


互いの連絡先をスマホに登録し、俺が椅子から立ち上がり帰り支度を始める。


「あの……」

「どうした」

「これっていつまでやればいいんですかね……」


トミイが立ち上がり言ったが考えたこともなかった。


「わたし、こんなのだと思ってなくて。浮かれて、ちゃんと話聞いてなくて」

「異世界転生に終わりはないのよ」


コウテンがトミイの方を見て言った。


「おっおわりがないって……」

「タマシイはずっとずっと必要になるんだから、人間はいくらでも生まれてくるし欲望はなくならないんだから願いにも想像にもチカラにも終わりはないのよ。寿命尽きて死ぬまで続けてもらうの」

「マジ?」


俺は赤い悪魔に尋ねた。


「マジだよ」

「ガーンだな、もっと細かく契約内容を聞いておくんだった」

「だからアマエチャン言ったじゃん」

「あっさんもよく話聞かずに契約しちゃったんですか?」

「別に俺はそれでもいいけどな、俺が死ぬまで相手を殺し続けられるなんて夢みたいな生活だろ」

「えぇ……」

「トミイは透明になれるんだろ? なんでもやりたい放題だろ。欲しい物あればどんなもんでも盗めるし、映画館にもタダで行けるしで最高じゃないか」

「わたしが透明になれるのは一日五分だけですよ……」

「それはちょっと微妙なラインだな」

「異世界行った子は一日中なっていられるのに……」

「ああ、夢で見たんだな。どんなんだった」

「トラックで死んだ子が、ずっと透明でいられるって気が付いて……。その最初は女の人を見ているだけだったんですけど……」


声がどんどん小さくなっていく、トミイは言いずらそうに口をつぐんだ。教えてもらわなくとも大体想像はつく。


「当ててやろう、透明になれることに気が付いた勇者が女湯覗きにいったりするだけで満足していたのが、段々気が大きくなって目的の女を見つけてはレイプまでするようになったってとこだろ」

「はい……。しかも、無理やりされた子はなんか魔法ですごい喜ぶ感じで……」

「まさにチートだな」

「異世界は欲望の発散の場なんだからとーぜんじゃん?」

「そう言われると反論できねぇなぁ、まぁ死んだ後の特典なんだからなにやっても自由ってことだろ? イスラム教にもそんな感じの教えがあるらしいし。案外フツーのことなんじゃねーの」

「うぅ、そうですか……。それで……。このまま誰も殺さなかったらわたしどうなっちゃうの……?」

「どうもしないの」

「えっほんとに?」


トミイは安堵したようにため息をつく。


「あたしが選んだ選定者なんだから、放っておいてもまた殺しだすの」

「いっいやっ……! 全然やってませんし、それにみつからないし」

「能力がショボいから探すのもやる気がでないんだろ。もっといい能力をやれよ」

「当人が欲するチカラが発現してるのよ、うれしいはずなの」

「ほぉ」

「まぁ、目立ちたくないんでそれは、嬉しいですけど……」

「俺と似てるな」

「その禿げ頭死ぬほど目立ってるぞ」

「これはどうも」

「欲は生きている間も、死んだ後も消えることは決してないのよ~」

「うあああ……」

「みんなが喜ぶ仕事をしてるんだから悩む必要なんてないだろうに」

「そうだぜ!」

「そうなの」

「でもぉ……」


ヒトゴロシの先輩にご教授して頂くはずが、何故か俺がはげます形になっている。人には向き不向きがあるから仕方ないのだが、コウテンによれば勝手に殺しだすのだと言うし実はこいつはシリアルキラーなのかもしれない。人を殺すのにインターバルが必要なタイプで寝る子は育つという奴だ。一ヵ月黒いニンゲンを殺していないらしいし、そろそろ頃合いなのではないか。女子高生の同僚とはいえ油断ならない相手だ。気を許してはいけないかもしれない。


「おい、おっさんアレ」


急に赤い悪魔が俺の袖を引っ張ってきて、居酒屋のカウンターに設置されたテレビを指さしている。今の今までまったく注目していなかったのだが、そのテレビに映し出された光景に釘付けにされた。


「行方不明になっているのは高校生の四人で……。本日の午後から行方が分からなくなっているとの……」


あのキノコ頭に丸眼鏡は間違いようもない、タカギ少年だ。それに残りの奴らも見覚えが……。今日殺したばかりのいじめっこといじめられっこではないか。なんてこった、報道までされるなんて事件性を持つのが早すぎる。一体どういうことだ。


「あっ、あの眼鏡の子しってます、すごい囲碁が上手いんですよ」

「マジかよ、全然知らん」

「テレビにはあまり出ないですけど雑誌では特集組まれたりしてますよ。わたしファンなんです、若いのにインタビューもしっかり受け答えしててその上強くてかっこいい良いんですよ」

「それはやられたなぁ」

「えっ?」

「あーあー、おっさんが異世界行きにした奴じゃん」

「えっ」

「明日は土曜だな。トミイさんよ。明日は暇だったりするか?」

「えっ」

「一緒にハイキングに行かないか」


次の日俺はレンタカーを借り、ネイルハンマーを買ったのと同じ店でこれを購入したら疑いの目を向けられるかもれないと危惧し以前とは別のホームセンターでスコップを購入した。申し訳程度にリュックサックと化学繊維のウインドパーカーとパンツ、トレッキングシューズにちょっとした雑貨品も購入しておいた。これで俺は急にアウトドアに目覚めたおっさんにみえること間違いなしだ。だいぶ大きい出費で不安になる赤い悪魔の言っていたように、金の問題は解決出来るのだろうか。向かう先は入念にグーグルマップで探した人気のない雑木林奥で少年たちの死体はそこに埋めにいくことにして、今は借りた車で助手席にトミイを乗せ道路を走っている。


「どうしてわたしも……」

「ファンだって言ってたからお別れがしたいかと思ってな」

「こんなお別れのやりかたないですよ!」


そうは言いつつもこいつは百合の花束を両手に抱えてきている、やはり油断ならない存在だ。


「死んだっていっても状態は良いぞ、なんといってもアイテム空間のものは腐らないからな。タマシイはあっちの世界で充実してる、巨乳の彼女つきだ。タカギも文句はなにも言わないだろう」

「死んでるからなぁ」

「じゃあそのまま置いておけばいいんでは……」

「俺は綺麗好きなんだよ、自分の倉庫に死体なんて置きっぱなしにしたくないんだ。それって普通のことだろ、それに四人は流石に多すぎるよな? 言葉もよにんとしにんでなんだか不吉で落ち着かないしな、幽霊ってのは信じていないがイメージってのはやっぱ大事にしたい」

「はっははぁ……。そ、そうですか……」

「死体なんてその変で腐らせるのが悪魔の流儀だぜ? わざわざ埋めるなんてめんどうなことするんだなぁ」


開いた窓に張り付いた赤い悪魔の髪は強くはためいている。


「俺達は人間だからな、ルールに則って行動しなきゃいけないんだ」

「普通は山に埋めに行かずお葬式をするんですよ……」

「ルールなんて守るな! 破壊せよ!」

「そうなの、まもるべきなのは異世界人のみなの」

「生きてる人間も大切にしてくれよ」

「言ってることがめちゃくちゃですよ……」

「そんなこと言ってもトミイだってすでに一人やっちゃってるんだろ?」

「うっうう……」

「おっと、この辺だ」


俺は車を停車させた。


「楽しい山登りの時間だな」

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