第21話

 オマハンの抵抗がやみ――


 やむと同時に、オマハンの肉体の重心が急激に下がり――下がりきったように感じたからだ


「『――ただ一撃でわずかに身じろいだ異舌いたんなるパセラッハ某の鼻先から満面を血に染めて意識を涅槃ねはんへ飛ばす』! エイッ!」


 気合いとともに跳ぼうとした、ヴェイル戦闘伯へ――


 そして、エキスバトン異舌審問官へ――


 オマハンはただひとこと、


<<<めえ!!!!!>>>


 その声に、


 室内の全員が、震撼した――


 異舌者が異舌とされ、“完災人”と呼ばれる理由のひとつが、これだった


 使いたなかったけど、しゃーない・・・!


 声の名は――“王声オウセイ


 オマハンが使った発声法は、いまでは極秘裏にそう呼ばれている――


 人間を含め、牙もたぬ動物は、本能的に、生まれながらに、肉食獣のあの低い威嚇のうなりや太い吠え声への根源的な恐怖を擦りこまれている


 “王声”は、そこに作用するのだ


 ゆえに、またの名を“根源話法”


 すなわち“胚舌ハイタング


 ほかにも“アップワード”(この場合のupは「さかのぼる」を意味する)、“枢機声”、“源語ミナモトガタリ”、“君主声”――


 史書にいう“大王たち”とその軍団は、この声を用いて四方の豪族たちを撫で切りにしたという――


 ましてや、いまは「歩く」と宣言しなければ歩けないほど、人声に敏感な時代なのだ――


「バカな・・・!」


 エキスバトンがうめいた


「呪祷書の精神増幅をもしのぐ“圧服話法アプソリューション”だと・・・!?」


 宣言ドミノコロナ禍のもと、その意思制圧効果は何百倍にも強化されている――


 オマハンの“王声”は、人類にとって、何よりも、自分自身の声よりも優先して反応すべき“宣言”なのだ――


 地をとよもすような“絶対制圧の地平”を、オマハンの舌はひた走る――


<<<道を空けてや!!!!! 通してや!!!!! ほんでみんなしばらく物言わんといて!!!!!>>>


 その場の全員の行動を縛り、オマハンは風を食らって立ち去った


 アリンスちゃん・・・!


 どこ・・・!?


  (第22話に続きます)

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