第13話

 誰かが言った


「そうだ! 彼らは心がひとつになっていたはずさ!」


 誰かが叫んだ


「僕たちカンタータを含め、みんな全員“想いはおなじ”だったはず――!」


 目がうるんでいた


 声が濡れていた


 セリフがというより、雰囲気と表情が、すでにもう、あかん・・・!


 思えば、最初の“人の持つ人間らしさ”の時点でやばかった・・・!


「“境界事例”――“トロッコ”」


 異舌審問官が、次の論題に移った


「暴走する路面電車トロッコのゆくてに、5人の万引き常習少女たちがいます。あなたの前には線路分岐の操作レバーがあって、それを倒せばこの少女たちを救えるのですが――進路を変更した先には、ひとりの善良なおじさんがいるのです。少女たちもおじさんもトロッコには気づいていないし、あなたが危機を伝える手段も時間もない。・・・あなたはレバーを倒しますか?」


 答える被検者たちは、もう、水を得た魚だった


「そんなの決まってる! “絆を信じて”レバーを倒す!」


「いや“絆”じゃない! “絆を超えた祈り”だ!」


「やっとわかった気がする・・・! われわれは“信じたい”んだ! “人と人、そのつながりの可能性”というものを――!」


「ええい! 涙をうかべて言う! 『感動に、感謝・・・!』」


「同じく言う! 『元気がもらえた・・・!』」


 これらの何が、こうもうぶ毛を逆立てるのか――?


 オマハンは自分でも上手く言語化できない――


『今という時代は、時としてバケモンを産み出すんえ、バケモンの群れをば』という、ありし日の師の言葉が思い出される――


 “グリマルキン異舌審問法”――!


 なんちゅうもんを考え出したんや・・・!


 こんなん、恐ろしすぎる・・・!


 “限界を超えた擬態”――で、オマハンは耐えた


 心の足腰がぐにゃぐにゃになるまでに消耗したが、この地獄のようなグループワークを、熱狂と感涙の皮をかぶったまま、最後までしのぎきったのだ――


 結局


 ヴェイル審問官は、オマハンたちのグループからも、そのほかのグループ群からも“異舌者”をあばき出すことなく、革表紙の書物とともに緑色の公用車で帰っていった


 幾日かが過ぎて、屋敷はついに、大統領令嬢訪問のときを迎える――

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