第12話

 オマハンは判断を宙ぶらりんにして、様子見の構えだったが――政治家の屋敷に働く人々は、議論好きだった


「極限状況ね」


 料理長のハドソニックが嘆息した


「けれども、少なくとも『忘れない』の一言に・・・“人の持つ人間らしさ”の残り香は感じられるかしら」


「同感だな」


 主人付き副従者のライムガルボがうなずいて、


「どうだろう? もしカンタータが言ったのが『さようなら忘れない』でなく『ありがとう忘れない』だったなら?」


 メイドのピートメイカーがこぼれそうな目をさらに見開いて、


「そこは『すまない』じゃないの!? 真顔で怖いこと言わないで・・・!」


「待つんだ、刑法的には――」


 と、庭師のネイビール


 家政婦長のミセス・ライシュマツがぴしゃりと、


「ネイビールさん、この問題に法律は関係ないわ! 法律なんていくらでも変えられます!」


 議論は紛糾したが――


「ええと、みんなひとつ見落としてるんじゃないかなあ・・・?」


 流れを一変させたのは、銀器担当召使いのエキスバトンだった


「だってそのとき・・・」


 同席の仲間たちのけげんそうな空気に、エキスバトンはとまどった声ながらも続けて、


「そのとき・・・『わたし』を含む遭難者全員は――“心をひとつに”していたんだろう? 可能な限り『たったひとつの救える命を救う』という目的だけのために全員が“心をひとつに”・・・」


 沈黙


 衝撃


 それに、解放――


 “心をひとつに”・・・!


 その言葉は、あたかも、魔法・・・!


 感動のうねるような波動が、エキスバトンの発言を中心に部屋じゅうへと行きわたり――まったく理解できないオマハンは、戦慄と仰天の震えが体表面に洩れ出すのを懸命にこらえた


 なんなん!?


 この生きもんは!?


 この生きもんらは・・・!?


  (第13話に続きます。恐怖は、さらに・・・)

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