第7話

「この日のために!」


 サモン・ドが高らかに言った


「ぼくは“アダルティな文学”を50冊、読んできたんだよ!」


 アリンスがふたたび「振り返る!」と、ほんのすぐそこ、すぐ目の前にサモン・ドの笑顔がてらてらと盛り上がっている――!


 心底、アリンスはおののいた


 サモン・ドの言う「アダルティ」が「男の欲望を刺激するための」という意味ならば――そんなもの、実地に試されてはたまらない!


「“日が沈む”っ!」


 即座にアリンスは自身の“聖女”を解放して、全身を淡く帯電させた


 が


 しかし――


 このような状況では、その力は逆効果にしかならないことを、彼女はまだ知らない――


 オレンジ色の共感覚・・・


 間接照明・・・


 ムーディな空気感・・・!


 サモン・ドがわめいた


「たまらん! 最高に興奮してきたあっ!」


 アリンスの頭からついに、思考も、自制も、何もかもが吹き飛んで消え、口から出た言葉は――


「蹴るっ! 蹴る蹴る蹴るっ――!」


 しかしもう、近すぎる!


 狙いも定められないし、力も込められない――!


「ふふふふふ・・・! マイプリンセス、まずは耳から、とろかしてあげようね・・・!」


「きゃーっ! 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴るうっ!」


「さあ! 一緒に『法悦』の時間だよ!――『サモン・ドはそう言って飛びかかった』っ!」


 ベッドに押しやられ、押し倒された


 アリンスを押さえつけながら、サモン・ドが祈りの文句のように『夜具の中・・・その肌身は蒸すように熱く・・・!』とか『あの人ッてばひどいンですわよ・・・!』などと、ぶつぶつ唱えている


 どれも文体にとんでもなく歴史を感じるのは――この図書室の蔵書から探し出して読んだから!?


「『いつの間にかボタンを全部外す』っ! そして『彼女のみずみずしい肢体をくるりと裏返す』う!」


 服を次々にがれながら、アリンスはぼんやりと思った


 あの子・・・


 幼いころ私が傷つけたあの子・・・


 いまいきなり現れて、私のこと助けてくれたりしないかな・・・?


 さっきのあの従僕さんが、じつは、大きくなったあの子・・・だったりしないかな・・・?


 あるわけないよね・・・


 あんな酷いこと言ったんだから・・・


「ほう? なんて言ったの?」


 口に出ていたらしい


「きゃーっ!」


 アリンスは泣きわめいて、


「ぱんち!」


 攻撃が初めてまともに入った――が


 サモン・ドは頬にアリンスの拳をめりこませたまま、ニチャリティ・・・と笑って、


「はい!」


 と言った


 いったい、なにが「はい!」なのか!?


 アリンスは涙を流し、気が遠くなるほど絶望して――


 サモン・ドの呆けた笑顔が残像を残しながら上へと流れていくのを、濡れた目を大きくまんまるにして、見送った――!


 (第8話、第1章クライマックスに続きます)

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