第6話

 全員、一声も発していない


「セキュリティノィズ発振中、セキュリティノィズ発振中、セキュ・・・」


 人を小バカにしたような合成音声のアナウンスがやがて始まり、無機質に繰り返している――


「使用人の声だけを打ち消すよう調整された、逆位相スピーカーだよ。この屋敷中いたるところに埋めこまれ、いつでも彼ら一人一人ののどに狙いを定めている」


 サモン・ドがゆったりと、満足そうに告げた


「むろんそれだけでは不十分なので、彼らにはこの周波数を浴びたらすぐ随意筋が硬直するよう、条件づけもしてあるんだけど!」


 アリンスはようやく、完全に、理解した


 ギャリジェンヌが「駄目だと感じたらすぐに引き返すべきだ」と助言してくれた理由を


 この男は――“自分の異常性に気づいていないタイプのホラー人格”なのだ!


 サモン・ドが「軽く腕を振」り、司書たちが図書室を出ていく


 なぜ腕を振るだけでそうなるのか、なぜ今そうするのか、今度はアリンスに説明もない


 いや、原因や理由などどうでもよかった


 これは・・・まずいまずいまずい・・・!


 採光窓のガラスが黒く変色した


 ひろびろとした図書室全体が密閉空間と化した


 背後で何かがせり上がる気配――


 アリンスはほとんど悲鳴のように叫んだ


「振り向く!」


 体をひねった目の前に――天蓋付きハリウッドスタイル、キングサイズの、ダブルベッドが現れていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る