第4話

 メイド長と筆頭執事が、


「そばにいる者! 大統領令嬢をお助けしろ!」


 という意味の言葉を異口同音に叫び――もっとも近くにいた従僕のひとりが、それに完璧に従った


 飛び出した従僕の腕の中に、アリンスは抱きとめられていた


「あ、ありがと・・・!」


 アリンスは見上げて礼を言ったが


 すでに相手はつばの短い帽子を目深にかぶり直して、顔を伏せたまま――目の下の濃い隈だけがちらりと見えた


 従僕はアリンスが立ち上がるのを手助けして、一礼――聞き取れないほどの小声で自分に命令している――元の列に下がった


 帽子――


 従僕にしてはめずらしい


 庭師だろうか?


 それとも運転手だろうか?


 ふたたび歩き出したアリンスに、ギャリジェンヌが言った


「・・・続けますか? それとも帰りますか?」


 アリンスは、答えないことで答えに代えた


 鳥肌の立つような疑問が心に渦を巻いて、それどころではなかったのだ――


 なぜ――?


 なぜ間に合ったのだろう――?


 あの従僕、私の近くにいたとはいえ、けっして一番近かったわけじゃないのに――


 なぜ、あの従僕は誰よりも早く――ギャリジェンヌよりも早く!――私が倒れるのに反応できたのだろう――?


 アリンスの正面、開け放たれたエントランスホールから、屋敷の主人が歩み出た


 憧れや熱狂や嫉妬や揶揄も含めて“若き太陽神”――と、彼があだ名されているのもうなずける


 あきれるほどまばゆい金色の巻き毛、しなやかで均整の取れた長身、いかにもニュース映えのする、すべてを知っているような、自信にあふれ、それでいて、どこか遠い微笑――


『一般教書演説を務めるのにあれほど似つかわしい、アイコニックな容姿はない』


 かつてアリンスの父が疲れたような笑みを浮かべてそう評した、美男の若手最有力政治家が――いま目の前で、


「親しみをこめて両手を広げる!」


 と言って、両手を広げた


「ようこそ我が家へ! ぼくのマイプリンセス――!」


 (回を追うごとに字数が・・・第5話に続く)

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