第6話

「ちょっと、あなた何言ってるの?」

「いいから、俺に任せてくれ」


 妻と息子が、顔をしかめて俺を睨む。引かないでくれ。お父さん悲しいぞ。


「解放条件は一つだ!」

「な……なんですか? やっぱり、お金ですか? 都こんぶじゃあ、そんなに稼げないですよ……」

「違う。息子に、工場見学をさせろ」


 都こんぶの故郷を見れるとなれば、息子も喜ぶだろう。


「工場見学?」

「ああ。今週の日曜日、家族で訪問する。中野さんは俺たちを歓迎して案内しやがれっ!」


 自分でもバカみたいだなあ、と思う。


「はあ……まあ、それぐらいなら大丈夫ですよ」

「よし! じゃあ解放してやる!」

「え? ここで?」

「ああ。今すぐ降りろ!」


 俺は後部座席に回って、無理矢理中野を外に引っ張り出した。


「さあ、帰ろう!」

「ねえ、あなた、中野さんかわいそうじゃない?」

「そうだよ。乗せてあげようよ」


 ぐっ。なんだか俺が悪者みたいだ。しかし、俺は家族水入らずで帰りたい。


「大丈夫だ。社長さんだぞ? 部下が迎えに来てくれるに決まってるじゃないか」

「確かにそうね」

「そうだね。社長さんだもんね!」


 素直で助かった。愛してるぞ、お前たち。


 ふと後ろを見ると、長い渋滞が出来ていた。クラクションの嵐だ。


「やばい、早く進まないと」


 俺は、アクセルを踏んだ。徐々にスピードが上がっていく。バックミラーを見ると、後ろで大きく手を振って怒っている中野が見えた。どんどん小さくなって、しまいには見えなくなった。


 ごめんなさい、中野さん。


「いやぁ、とんでもない夜だったな」

「そうね。疲れたわ」

「工場見学楽しみだね!」


 ああ、そうか。工場見学に行かないといけないのか。せっかくの日曜日がつぶれちゃうな。


 まあ、家族で過ごせるんだからいいか。


「そうだな。できたての都こんぶいっぱいもらって帰ろう!」

「うん!」


 あ、でも俺都こんぶ苦手なんだよな……。


「おえっ」


 突然、妻がえずいた。


「おい、大丈夫か? 車酔いか?」

「いや、この感じ……つわり?」


 時間の流れが変わるのを感じた。


「私、妊娠したかも」

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