第5話
「おいサンタ! こいつは誰だ! これが『おまけ』ってやつか!」
いくら何でも、プレゼントで人間はないだろう。
息子は怯えた顔で、男を見つめている。
「この人は、都こんぶを作っている、中野株式物産会社代表取締役──中野盛夫さんだ」
「ど……どうも」
どうもじゃねーよ。
「後は分かるな?」サンタが俺を見て言った。
いや、全く分からないが。
「じゃあ、わしは他の子供のところにも行かなきゃならないから、もう行くよ」
サンタはそう言って、ソリに向かって歩きだした。
「え? ちょ、ちょ待てよ!」
俺の中のキムタクが、思わず溢れだす。こんなおっさんを置いて行かれても困るし、気まずいだろうが。
案の定、車内に気まずい沈黙がたっぷりと流れた後、キムタクが功を奏したか、サンタが踵を返して戻ってきた。
「あ、そうそう。追いかけて悪かったな。物騒なまねをしてしまった。それにしても、息子さんはとてもいい子だ。これからも、幸せに暮らすんだぞ」
「は……はい」
なんだ、とってもいい人じゃないか。さっきまで悪魔に見えていたのが嘘のようだ。やはり、人と人というのは、話し合って初めて分かり合えるということか。
勝手に一人で納得していると、サンタはいつのまにかソリに戻って、手綱を握っていた。こちらに軽く手を振って、やあっ! と叫んだと思ったら、空を飛んで見えなくなってしまった。
「すごい……本物初めて見たわ」
妻が口をあんぐりと開けて驚いている。人が“いる”という実感は、なぜかいつもいなくなってから感じられるものだ。
「あ、あの……」
中野が、申し訳なさそうに座っている。
そうだ、忘れてた。一体こいつをどうすれば……。確かに息子は都こんぶが好きだが、別にそれを作っている人は好きじゃない。どうしたものか。
「ねえ、君は都こんぶが好きなの?」
中野が息子に尋ねた。
「うん! この世の食べ物で一番好きなんだ!」
「ははっ、そうかそうか。それは嬉しいな!」
にしても、この人が社長さんなのか……。そうか、彼にしかできないことがある。
分かったぞ、サンタ。
「みんな、ドアと窓を閉めてくれ」
妻と息子が、怪訝そうな顔をする。
「なんで? もういいでしょ?」
「いいから!」
渋々、といった感じで、二人は窓を閉めた。
さあ、始めるか……。
「おい、中野!」
「はい?」
「俺たち家族は、お前を監禁した!」
「へ?」
中野がぽかんと口を開けた。
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