第3話
やがてトナカイの鼻水も乾いた頃、瀬戸大橋が見えてきた。
「うわー、でっかいねえ!」
息子が楽しそうに声を上げる。
息子よ、旅行じゃないんだから。
「ライトアップされてて綺麗ねえ」
妻よ、旅行じゃないんだから。
「橋に入ったら、少し安全運転にしたい」
「そうね。電車も通るって言うし、事故したら海に落ちちゃうかもしれないもんね」
「えー! 海に落ちちゃうの? 都こんぶにとっては里帰りだね!」
なんでこんな冗談が言えるんだ? 肝が据わりすぎだ。どこで教育を間違えた? いや、成功しているのか?
そうこう言っているうちに橋に入った。ライトアップのおかげで、かなり前が見やすい。ありがたいことだ。
「ねえあなた! あいつもう追ってきてないわよ!」
「ほんとか!」
橋に入ったからあいつも諦めたのか……。安堵して、ハンドルを握る手がゆるむ。
でも待てよ? そもそも一本道で、追い越しをされたわけでもない。あいつは一体どこに行ったんだ? まさか、空を飛べる訳でも……んはっ!
そうだ! あいつはサンタじゃないか!
「やばい! 上だ!」
「上?」
その時、ふと雰囲気が変わった。ライトアップで明るかったはずが、突然周囲が暗くなった。
「上から当ててくるぞ! 伏せろ!」
妻と息子が絶叫する。俺はできるだけ身を縮めた──が、衝撃は襲ってこなかった。
なぜだ?
恐る恐る顔を上げると、前方を優雅に飛ぶソリが見えた。
俺たちを追い越していった? 諦めてくれたのか? そのまましばらく観察する。すると突然、着陸した。
やばい、前を塞がれた! このままじゃあ──ぶつかる!
「伏せろおおぉぉぉ!!」
再び妻と息子の絶叫を聞きながら、俺は思いっきりブレーキを踏みつけた。
体が前に飛んでいきそうになる。そこをぐっと耐えて、ハンドルを一気に切った。
車がドリフトし、世界が回る。耳をつんざくタイヤの摩擦音と共に、白煙が舞い上がる。
俺は体を色々な所にぶつけながら、死を覚悟した。
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