第12話

 高層ビルに囲まれた緑地公園の中央に佇む美術館では、絵画展覧会が催されていた。コンテストで公募された絵画の中から、最も優秀な作品の数々が展示されている。

 その中でも金賞を受賞した作品は、美術館の中央展示室に飾られ、多くの人々から感嘆の声がかけられていた。

「素晴らしい、人々が嘆き悲しむ暗闇の中で、天使が祈りを捧げる姿。そこに一筋の光が差し込み、希望があふれ出すような質感と色彩が描かれている。凶悪犯罪の恐怖に怯えて暮らす私達に、勇気を与えてくれているようだ……」


 金賞受賞の作品の横に絵画銘板が打ちつけられていた。そこに刻まれた題名は『天使の慟哭』、作者名は『ダリル/マルト』。

「ダリル、おめでとう。あなたの作品は金賞を獲得することができたわ。そして私との初の共同創作」

 マルトは薔薇の花束を抱え、自分達の共同作品を鑑賞していた。


 マルトはダリルが描き残した油絵を加筆して完成させ、コンテストへの出品を行っていた。作品は高く評価され、ダリルの死を惜しまれながらも、マルトへの創作依頼が次々と舞い込むようになっていた。

「作品も高い値で売れるようになったわ。でも……警察の仕事も辞めないつもり。私はあなたが本当に描きたかった情景が実現するまで、この世のけがれを塗り替えていきたい。タブレットを造り出した本当の悪魔を見つけ出すまで」


 耳に取りつけたマイクロデバイスから、署長のわめき声が聞こえてきた。

「了解……これから向かいます」

 マルトは花束をそっと床に置くと、絵画に背を向けて日が差す回廊へと歩きだした。


「ドローイング、『女神の飛翔』。トランスマインド、ヴィーナスソウル女神の魂

 光に手を伸ばして羽ばたく女神の姿が、大理石を敷き詰めた中庭の回廊に描かれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使の慟哭 NEURAL OVERLAP @NEURAL_OVERLAP

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ