第11話
シェリムが得意げにマルトに語りかけた。
「なぜ私が理性を保てるのか、わかる? これまで誰も味わったことのない絶望を経験してきたからよ。こんな幻想の中での恐怖など他愛もないこと」
「ダリルを失った私の悲しみとは比べ物にならない……」
「ダリル? はん、結局みんな自分に都合のいい話に足を向けるだけで、簡単に人を見捨てる。こんな世界、魔物に喰い尽くされてしまえばいい。それが私の願い」
「自分の悲劇に他者を巻き込む権利など、あなたにはない」
「私には権利がある、自分を裏切った奴らと社会への復讐という名の権利が。私の研究成果を奪った挙句、生体兵器開発に勝手に応用を始めた。だから試薬を盗み出してばら撒いてやったの、私の発明だとわかるように……。もうあなたの変容が切れる時間ね、これでお終いにしてあげる。ダリルの待つ場所に行きなさい」
シェリムは背中から黒い翼を広げると、羽根をまき散らしながら飛び上がった。両手から鋭い爪が長く伸び、マルトの顔めがけて襲いかかる。
ガチンと鈍い金属音が室内に響く。シェリムの爪は
「なぜ……変容が解けないの?」
マルトの口がシェリムを
「さあ? どうしてでしょう。あなたのように魔神と偽る愚かな人間を地獄に送ることが、私の仕事なのかもしれない。今は身も心も『
マルトは爪を弾き返すと、両腕を大きく天にかざした。
シェリムの頭上で鎌の刃先が
「地獄に堕ちなさい……」
鎌が振り落とされると、白い床一面がワインレッドの薔薇模様で埋め尽くされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます