第8話

 マルトは襲いかかる怪人の攻撃に頭を下げてけると、その勢いにあわせて剣を振り抜いた。一閃のやいばが白い線を描き出すと、怪人は足をよろめかせ、濡れた路面に倒れ込んで夜空を仰いだ。


 マルトは怪人にゆっくりと近づき、体毛が抜け落ちたその顔を見下ろして、青ざめた。

 急いでその頭を持ち上げると、大声を上げて叫んだ。

「ダリル!」


「マ、マルト……」

「どうして、どうしてこんなことに」

「見えた……見えたよ。絶望に満ちた、天使の、嘆き悲しむ、顔……。これで描ける、絵を完成させることが……」

 マルトの顔に触れようとしたダリルの手がだらりと垂れた。


 ダリルを抱きかかえ泣き叫ぶマルトの声は、背後に降り立った輸送機の轟音にかき消された。

「マルト、どうした? 報告しろ!」マイクロデバイスから署長の怒鳴り声が聞こえてくる。

 マルトはマイクロデバイスを耳から外すと、闇の中へ放り投げ、コートのポケットから雨で汚れた名刺を取り出した。

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