第7話

 ローヌ街の上空から見下ろすと、複数のポリスドローンが移動しながら、一点に向けてビームライトを照らしていた。近づくにつれて見えてきたのは、おびただしい数の路面に転がる魂の抜け殻。

 オートスピーダーを着陸させると、マルトはその抜け殻の中にダリルはいないか一人一人確認しながら、怪人が彷徨う場所へ足を進めた。

 他の警官は誰もいない、民営警察に身命を賭してまで市民を守る義理はないからだ。


 やがて見えてきた怪人は全身を灰色の剛毛で覆い、尖った口には白く光る牙を生やしていた。マルトはその姿を見てアパートに住みついていたねずみを連想した。

 血がしたたる口元はかすかに吊り上がり、ドローンが照らすライトに両手を掲げて仰ぐ姿は、恍惚感に浸っているようにも見えた。

 たてがみのような毛並みに埋もれた瞳は蒼く、マルトはその瞳の輝きにどこか懐かしさを覚えた。


 マルトはタブレットを取り出すと、ペンを画面の上に走らせた。

「ドローイング、『天使の嘆き』。トランスマインド、エンジェルソウル天使の魂

 元々宗教画を描くことが好きであったマルトは天使を題材に選ぶことにした。荘厳なつるぎを携え、白い翼を広げる姿。せめてこの罪深き者を天国へといざなうために。


 マルトの翼に雨が跳ね返ると、反射した光彩がまわりで煌めき、オーラを発しているかのような幻影を映し出した。そのオーラに惹きつけられるように怪人は振り向く。

「ぐるる」と唸り声を上げると、美しい獲物を見つけた獣のように、マルトをじっと観察した。

 一瞬の沈黙の後に、怪人は足の鉤爪かぎづめを路面に喰い込ませ、マルトに向かって走り出す。白い水しぶきが川に架けられた橋のように連なる。

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