第5話
「シェリム・トーラー、この人があなたの絵を? まだ未完成なのに?」
「ああ、見込みがあるから、この絵を完成させるヒントをくれると言っていた。これからこの人に会いにいく予定だ」
「こんな夜更けに……それにこの人、女性よね?」
「心配するな、変な気を起こすつもりはない。やきもちなんて君らしくないな」
「私も自分の絵を描きたいと思っているけど、仕事が忙しくて時間がないの。あなたも少しは働いてみたら、どうかしら?」
「何を今さら。どこに仕事があるって言うんだ。それに俺の分まで稼いでやるから、頑張れって言ってくれたのは君じゃないか」
マルトは前髪をくしゃりと握ると、一言だけ呟いた。
「私の苦労も少しだけわかってほしいの……」
ダリルは立ち上がると、床に転がっていたレザーコートを羽織り、ドアに向かっていった。
「君のその態度にも少し嫌気が差していたんだ。まあ見ていてくれ、この絵で絶対成功してみせる」
ダリルは感情の高ぶりを抑えるように唇を震わせながら、ドアをバンと閉めた。
甲高い靴音がアパートの廊下に響くのが聞こえた。
マルトはハアと溜息をつくとベッドに倒れ込み、腕を顔の上に被せて天井のしみをぼんやりと眺めた。
「ダリル、あなたはどこに向かおうとしているの?」
頬に涙がつたうと、マルトはそのまま深い眠りに就いた。
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