第2話 何で僕?

一年前。


僕はいつもクラスの隅で早くこのつまらない一日が終わらないか過ごしていた。

ま、今日が終わってもまた次の日もつまらない日なのだが。


そんなある日、転校生がやって来た。


「はじめまして、木崎陽菜です。よろしくお願いします!」


元気いっぱいの声で挨拶をする女の子。

腰まである長い黒髪。

大きな茶色がかった瞳。


可愛い……。


そう思った。


「山田の隣が空いてるな」


教師が僕の隣の席を指差した。

陽菜はツカツカと僕の方に向かって歩いて来る。


膝丈のスカートからスラリと伸びた白い足に、男子が釘付けになった。


「よろしくね」


黒髪をフワリとさせ着席。


何も言えない僕。


彼女が席に着くと、早速男子たちが群がった。

彼女はあっと言う間にクラスの中心になった。

明るく、可愛くて、誰からも好かれる彼女。

でも、僕には関係ないことだ。

そう、僕はボッチで目立たない、平均以下の奴なんだ。

彼女みたいなのが僕と釣り合う訳が無い。

そう思っていた。


しかし、彼女の魅力は留まるところを知らない。

休み時間になると、必ずと言っていいほど誰かしらに囲まれて楽しそうな声をあげている。

そんな彼女を見ているうちに、僕はどんどん心惹かれていった。

陽菜のことを目で追うようになったのだ。


「ねえ、山田君。今日の放課後って暇?」


ある日、突然彼女に声を掛けられた。

学食を出て一人で廊下を歩いていた時だった。

僕はドギマギしながら答える。


「え、うん……。特に用事はないけど……」

「良かった! 私と一緒に帰らない?」

「え? 僕と?」


何のつもりだ?

僕なんかと?

彼女に何のメリットがある?

疑問が頭の中で渦巻く。

手に持っているパソコン雑誌が汗で濡れる。


「山田君が嫌ならいいんだけど……」


陽菜がシュンとする。

周りに誰もいないことを確認する。

こんなとこ見られたら、嫉妬した男子に殺される。


「僕は別に嫌とは言ってない」


素直に言えない僕。


「ホント?! やったぁ!!」


陽菜の顔がパッと輝く。

その笑顔を見て僕は心臓が飛び出そうになった。

僕たちは一緒に下校することになった。

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