第5話 記憶喪失

日記

2022年8月12日

 たのしく小説を書き進めていく。

 なんとブックマークが4つついた!

 後書きを先に書くと言う暴挙を行いながらも私は書き進める。

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「んー全然書けない・・・」


 今までの内容を全て見直して続きを考える。

 でもどう書くのが一番良いのかが分からない。


「スランプってやつかな?」


 私は作家気取りに言ってみる。


「いや、スランプって言えるほど書いてないでしょ?」


 相変わらず妹は容赦ない。


「何か良いアドバイスをよこしなさい♪」


 書けないものは書けないのだ。こんな時の対処法は無いのだろうか?


「何で偉そうなのよ・・・。まぁでも割と良くある事なんじゃない?

 熟練のプロでも書けない時は書けないものよ。別に修正だって

 出来るんだし気楽にやってみたら?」


 まぁ確かに間違えて誰かに怒られる訳でも無い。

 

「とりあえず書いてみようかな」


 私は思うがままに書いてみる。

 私は何を想ってこれを書いていたのだろう・・・?

 今の私には分からない・・・。


・・・


 なぜなら私は記憶を失ってしまっているから。



 私はそれでも書き続けた。

 なぜかそうしなければいけないと思った。

 それ以外に何も無かったから。



 仕事はとても続けられる状態では無かった。

 とは言え日常生活にはそれほど支障は無かった。

 物の名前や使い方なんかは普通に覚えている。

 私は思い出と呼べるものを全て失っていたのだ。

 家族の名前も、自分の名前さえも思い出せなかった。

 こんな都合の良い記憶喪失があるのだろうかと思ったが、お医者さんが言うには事故のショックで私自身が思い出す事を拒否しているのだとか。

 自分を守る防衛本能として思い出を閉ざしている・・・かもしれないらしい。

 何かをきっかけで思い出す事もあるし、思い出さない事もあるとか。

 何ともいい加減なものだ。


 そんな私に妹が教えてくれたのがこの小説投稿サイトだった。

 私は以前、この小説を書いている途中だったらしい。

 何かを思い出すきっかけになるかもしれないから

続きを書く様にと妹に言われた。

 


「どうかな?とりあえず書いてみたんだけど」


 私は妹に聞く。


「んー、文章は形になってるし書き方は覚えてるっぽいわね。

 でもなんだか迷いがあると言うか先が見えずに書いてる感じね」


 それはそうだろう。話の続きなんて覚えていないし迷っている。

 私自身が迷いや不安で押し潰されそうだ。

 小説は作者の心を映すとは良く言ったものだ。

 この子の感想はその通りなんだろう。


「この作品は何を想って書いていたと思う?」


 妹は私に問いかける。その顔は至って真剣だった。

 私は何も答える事が出来なかった・・・。


 私はもう一度作品を読み返す。

 私はこんな事を考えていたのだろうか・・・

 自分の思想とは随分と違って見えた。


 これを書く事に何の意味があると言うのだ・・・。


「私は何でこれを書いているんだろう・・・。

 書くのをやめちゃダメなの?」


 私は思わず弱音吐いた。


「絶対に書くのをやめないで!必ず最後まで書き切って!

 あなたはそうしなければいけないの!」


 それは怖いくらいに真剣だった。

 私は何故か自分が間違っていたと思った。


・・・


 そんな時一つのコメントが付いた。


『作風が随分変わりましたね。何か心境の変化でもありました?』


 ブックマークをしてくれていた人だった。

 まさか記憶喪失になりましたとは言えないしなぁ・・・。

 私は思い切って聞いてみた。


『以前の作品に対してはどんな印象でしたでしょうか?』


 我ながら漠然とした質問だ。

 こんな事を聞かれたら誰だって困惑するだろう。


『楽しそうでしたね。あと何かを伝えようという気持ちを感じました。

 何度修正されてもそれは変わりませんでした。

 だから僕はそれが知りたくて続きを待っていました。

 この先も期待して応援しています。』


 私は何を伝えたかったのだろう・・・。

 誰に向けて書いていたのだろう・・・。

 それを知りたくなった。

 

 私は自分の考えを一度無くして

 別の誰かのこの想いを理解しようと思った。


「私、自分の想いじゃなくてこの人の想いを考えて書こうと思うの。

 はどう思う?」


の思う様に書けば良いと思うよ♪

 でもあまり無理しない様にね」


 何故か私は強烈な違和感を覚えた。

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