第10話

 インナーを受け取ると、しばらく眺めていたが……

「これ、どうやって着るの?」

「ああ、悪い、手伝おう」

 上下一体型インナーの背面チャックを開け、彼女の脚を通す。腕を通すところで綺麗な背筋せすじが目に入る。その背中を見つめながら、ゆっくりとチャックを上げた。

 彼女は髪に手をやり背中に垂らすと、くせ毛の前髪をちょいちょいと整え始め「うん、よし」と言うと、こちらに振り向いた。


「久しぶり」

「体のほうは……」

「うん? 全然調子いい、今までが嘘のよう」


「これは……どういうことだ?」唖然あぜんとするタカダさんから声がかかった。

「あ、紹介します。その、幼馴染のユリナです」


「はじめまして」ユリナがお辞儀をする。

「いや、参ったな。この状況をどう解釈すればいいのか」タカダさんは頭をくしゃくしゃと掻きむしった。


「タカダさん、これから色々と解明しなければならない事があるのはわかっています。でも今だけ我儘わがままを聞いてもらえませんか?」

「何をだい?」

「彼女を海に連れていきたい」

「潜水艇を使いたいと?」

「はい、昔約束したんです。水族館に連れていくって」

「水族館……! 随分と贅沢だがな。まあそれができるのが俺達の特権だからな」ふっと笑みをこぼした。

「ありがとうございます」


「ユリナ、せっかく何億キロもの距離と長い時間を旅してきたんだ。一緒に海を観に行かないかい?」俺は手を差し伸べた。

「うん、広い世界を見たいと思ってここに来たの。まさかおじさんの隆志がいるとは思わなかったけどね」

「おじさんか……でも気持ちは昔のままだよ。今でも君のことが大好きだ」

「こんな宇宙の果てで初めての告白? ふふ、悪くないわね」

 ユリナの手を取ると、恥じらう恋人同士のように笑い合った。忘れていた青春時代のときめきが胸のうちで弾んだ。


「探査基地に戻るか……航空宇宙局にはしばらく内緒にしておいてやる。せっかくの再会を台無しにするほど、俺も野暮じゃない」

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