第9話

「ユリナ」


 俺は照明を彼女にかざし声をかけてみた。

 静かに眠るその姿から返事は返ってこなかった。


 タカダさんが鼻歌を交えながら、レーザー掘削機くっさくきの準備を整えてくれていた。

「タカダさん、楽しそうですね」

「そりゃあさ、俺は掘削機のエキスパートだが氷の少女を掘り出すなんてことは初めてだからな。彼女を傷つけないように繊細な操作が必要だな」

「お願いします。なんとかユリナを助け出したい」


「ユリナちゃん、昔の幼馴染ね、信じがたいが……。よし準備完了だ、氷を徐々に融解させていくぞ」

 レーザーを照射すると一気に氷は解けて、おびただしい量の水が流れ出す。

 レーザーの波長を調整して彼女の周りの氷を慎重に解かしていく。


「もうすぐだ」

 やがて脆くなった氷がガラガラと音を立てて崩れていくと、彼女が手前に倒れ込んできた。俺は急いで体を支え、その冷たい肢体したいを強く抱きしめた。


 ユリナの体をさするとピクリと反応を示した。

 腕をゆっくりと動かし俺の両肩に手を乗せると、顔を上げて目を開き、じっと見つめてきた。


「隆志……老けたね」

 にこりと笑う一糸纏わぬ彼女の姿に目のやり場に困り、顔を背けながら一言だけ呟いた。

「ユリナ、それよりまず服を着よう。合わないかもしれないけど、これ着て」予備のインナー宇宙服を彼女に差し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る