第8話

 目が覚めた。辺りを見回すと窓から観える風景はいつもの青い空、ロケット雲が二本並んでいた。

 

「お目ざめ? 今日はいよいよ手術の日ね、きっとうまくいく。応援してるから」看護師さんの優しい声が私に語りかける。

「……夢を見たんです。どこか遠い未来、宇宙。私はあの世界で生きてもいいのかなって思った」

「何言ってるの、あなたの生きる世界はここよ。手術が終われば、またいつもの生活に戻ることができる。そんな悲観的な事を言っていたら、彼ががっかりするわよ」

「彼って……」

「この間来てくれた彼、『よろしくお願いします』って。あなたの事が本当に好きなのね、こっちが泣けてきたわ」

「隆志と海に行く約束をしたの」

「そうよ、また一緒に海に行ける日が来るわ」

「ううん、ここの海じゃなく遥か彼方の氷の世界。それが私の運命」

 看護師さんは困った顔をして、ため息をついた。

「今日一日は気をしっかり持ち直して、体調整えましょうね」


 先生から挨拶があり、まもなく手術の時間。看護師さん達が慌ただしく私の周りで動いていた。

「あの、最後にお水飲んでもいいですか?」

「ええ、少しだけならいいわよ」

 海洋深層水を一口、口に含んだ。これがきっかけでまた夢の続きを見れるかもしれないと思ったから。


 手術部の搬入口にガラガラとベッドが運ばれる。

 手術室に入ると白く冷たい空間がそこにあった。手術台に移され、クリップやらシールを体にペタペタと貼り付けられる。腕に麻酔の点滴が付けられ、口は酸素マスクで覆われた。

 聴こえてくるのはカチャリ、カチャリという手術器具の音と自分の吐息だけ。


 まもなくして意識が遠のいてくる……

 暗い海の中を潜っていく、ぶくぶくと口から溢れる泡が消えると、やがて冷たい氷に体が覆われた。

 目の前に見えるのはゆらゆらと揺れる小さな灯火ともしびと、心配そうに私を覗き込む見覚えのある顔。


「隆志……」

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