第5話

「優里奈さん、回診の時間です」看護師さんから声がかかった。

「優里奈ちゃん、調子はどうだい? 脈を測るから前を少し開けてくれるかな?」

「はい」パジャマのボタンを外すと、先生は私の胸元に聴診器を当てた。


「うん、大丈夫そうだね。予定通り手術は行えそうだ」

「高田先生……私怖いんです。心臓の手術って、うまくいくんですか?」

「ああ、心配しなくていい、人工弁に取り換えるだけだから。君は若いし体力もある」

「冷たい氷の中に閉ざされた夢を見るんです……私はここから抜け出すことができないんじゃないかって」

「手術が成功して順調に回復すれば、退院することはできる。今は体をゆっくり休めて体力をつけておいてね」


 その夜、私は睡眠薬を飲むためにペットボトルを手に取った。

 キャップをキュッと左に回し蓋を開けると、ペットボトルを口元に近づけ、ごくりと飲んでみる。隆志にもらった海洋深層水。無味乾燥、何の味もしない。今の私にはおいしさを感じとることができなかった。

 やがて眠気に襲われ、深い眠りに就く。次第に落ちていく、暗い、暗い闇の向こう側。

 そして見えてくる、いつものてついた氷の狭間はざま。手足を動かすこともできない、ただ一人孤独に深淵を見つめる。


 しばらくすると小さな光が見えてきた。私に向かって、一歩一歩近づいてくる。


 ――ああ、お願い! 私をここから出して。――

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