4-4
点滅する歩行者信号。月のない煉獄の夜を照らす街灯。赤信号に照らされた横断歩道。無人の町には飯綱隊が配備されていた。交差点周辺には碓井家の人々が散っている。
「現場と佐伯邸は目と鼻の先ですね」
煉獄の町並みから見える佐伯邸の屋根瓦を見つめながら言う。
「……いつまで不機嫌でいる気ですか」
「別に不機嫌じゃないし」
つんとそっぽを向きながら言う。あからさまな様子にハイネはため息を吐いた。
そんな中「おう、おつかれ」と現れたのは安倍が率いる部隊だった。
「夜になると冷えてくるなぁ」
「お疲れ様です」
「ここで封印ってことでいいんだよな」
「はい」
やりとりは専らハイネだ。きょろきょろと周りを見渡した陣が訊ねる。
「神来社さん、いないですね」
釘をさす前に言われてしまったとハイネは冷や汗をにじませる。ただでさえ不機嫌な飯綱をこれ以上悪化させるわけにはいかない。
「ええ! 生神来社さん見たかったのにぃ!」と、駄々をこねしゃがみこむのは
「黎は不在です」
「あの野生児がいようといまいと俺たちのやることは変わらん」
陣は「楽できると思ったのになぁ」と、大して気にもとめていない。いつもの調子の安倍に救われた。
「残念ながら他は出払っててな。N-4からは俺たちだけだ。封印ならうちの三姉妹が適任なんだが、」
「今由布院行ってるんだって! お土産頼むなら今しかないよ!」
さっきまで落ち込んでいた武蔵はすっかり元通りだ。烏合の衆とも呼べるこの部隊、なぜかまとまっているから不思議だった。
いい加減騒がしくなった煉獄内。とうとうしびれを切らした飯綱が口を開く。
「……もう! ちょっとは偲ばせてよ!」
「神来社さん死んだんですか」
「生きてます」
ようやく本調子に戻ったか、とハイネは胸をなでおろした。
「飯綱さん、仕事です。切り替えてください」
「エリーの鬼! 悪魔!」
「おっしゃる通りで」
すねた飯綱は「なんか馬鹿らしくなった」と、もっともらしい理由を吐き捨てた。
どんな理由であれ不安の種が一つ取り除かれたのは良いことだ、とハイネは思った。とはいえ、飯綱自身も今回の任務に向き合っていないわけではなかった。辻神と言えど、封印されるほどの歴史を持つ。つまり、かつては名のある邪神だったということだ。そんな実力を持つ邪神が再び顕現したということは、ある程度の覚悟を持たねばならない。
「知恵つけてるだけある相手ってことよね」
「ええ、一筋縄ではいかないかと」
ぐるりと交差点を見回した飯綱。
「戦闘があった場合、俺らは正直言って役に立たん。お前らに任せることになるがいいか」
今回安倍たちが呼ばれたものの、主任務は辻神の封印。援護程度なら問題ないが、前線に立つことはできなかった。
「任せてよ。とはちょっと言い難い人員だけど……まあ、何とかなるでしょ」
中距離戦闘型の飯綱と遠距離攻撃型のハイネだと少々手に余る。しかし、まわりに碓井家の人員がいるうえ、佐伯邸にいる面々もこちらに来ることを見越しての発言だった。
「……とはいえ、楽観視はあまりしないでほしいな」
飯綱はそう独り言ちた。
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