4-3
件。災厄を予言すると言われる妖怪。人の顔を持ち、これからの事象を伝えると首が落ち死に絶える魔性の獣。
「夢で死を予言されていたとするならこれまでの事故が多発していたのもうなずける」
「でも多すぎやしませんか。確かに件である線は濃厚ですが、そんな簡単に生まれるものでもないでしょう」
猜疑的な碓井の横で波羅が腕を組んでいた。渋面を向けぼそりとつぶやく。
「もしかしてだけどさ、作っていたとか?」
件は腹から生まれると言われているが、実際出自は不明に近い。それに、もし強制的に生成していたならば、人の頭を引きちぎる意味もそれなら理由付けできる。
「私もそう思ってました。事故の被害者は全員頭を損傷しています。新さんの夢でも彼らの頭が転がっていたそうです」
頭と胴は辻神によって二つに分けられる。体は、養分に。引きちぎられた頭は件として次の狩りに使われた。そして、件として二度目の死を迎えた彼らの頭が夢の中に転がっていく
「そんなニセモンで予言が確定することなんてあるん?」
「実際効果はあった」
成功してしまった。水を得た魚のように、人々を狩りだした辻神。事件や事故では済まされない。これは悪意のある災害だと武塔は言った。
「でもまあ、黎さん待機してるなら楽勝でしょ」
「黎ならいないよ」
のんきに構えていた波羅が「なんですと?」と、声を上げる。くたびれた武塔がさらにくたびれながら「ちょっと休職中」と、今にも消えそうだった。そんな彼に、神来社のことを訊ねられる者はいなかった。
「イレギュラーが起きて何を予言されるかわからない。最悪、自衛隊を動かすことになる可能性もある」
とりあえず、交差点は封鎖しよう、と武塔は続けた。
「ちょっと待ってください。そもそも、予言をされたら死ぬんすよね? 新くんは予言をされても生きてるんすよ? 今夜すぐ決行する必要あるんすか?」
そんな事態になるなら事前に準備して確実に仕留めるべきだと、櫟原は言った。
「新さんは口の動きを追って言葉の意味を理解できます。用心に越したことはないかと」
「それに、予言を聞いたらというのを、予言を認識したらとも解釈できる。現に夢に出続けている限りターゲットは彼であることに間違いない」
張り詰めた空気の緊張感がより一層増した。
「力を付けた辻神と件。二つを相手にするにはさすがに手に余る。もともとN-4の管轄だし、他の地区含め応援要請を出してみるよ」
「家にも掛け合ってみます。数人でしょうが人員はいるかと」
そう言って立ち上がり、電話をとった武塔と碓井。会議机に残されたメンバーを見て天鬼が訊ねた。
「応援要請はわかるんですが、碓井さんはどうされたんですか?」
きょとんとした波羅が「あれ、言ってなかったっけ?」と、声を上げる。
「脩二郎はね、ぼんぼんなんだよ」
「ぼんぼん?」
天鬼と櫟原の声が重なる。小首をかしげた二人に「代々妖怪退治を家業とする一家なのさ」と、なぜか得意げに語る。
「家も超広くて、超屋敷! って感じ。なんか馬もいたし、さすがにテンション上がったよね」
前に訪れた際、隅々まで見て回ったという。
活気ある波羅というのを見たことがない若人二人は、動揺を含んだ視線を送った。
「私が入りたての頃も、大きな任務があったんやけどね、そのときも碓井さん家の人らが出て来はったんよ」
かっこよかったわぁと、佐藤が独り言ちる。
「とりあえず、安倍さんたち来てくれることになったから」と、武塔が戻ってきた。碓井も話はついたらしい。
「それじゃあ、各自準備をしてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます