2-4

 マウスホイールに指をかけ手前に引くと画面がするすると流れていく。映し出されているのは、地方紙。武塔は過去の新聞データを洗っていた。

 死亡者は七人。藤谷敬、平田淑子、柊まこと、新見春義、近藤壮太、桑村さくら、佐伯健介。現状ここで止まっている。死亡事故のスパンは大体二週間。佐伯健介が亡くなって一週間が過ぎようとしていた。次の犠牲者まで時間がない。

 田山もおそらくこれが辻神の仕業だろうと気づいたはず。武塔はそう結論付けていた。しかし、一筋縄ではいかないと判断した田山はN-3こちらに任務を回してきた。そう、判断した要因があるのか、天性の勘か。彼女の判断だけで十分警戒するだけに値する因子となった。

 天鬼から届いたメールには図書館で調査した内容の報告書が添付されていた。よく調べられている。刑場が近いこと、辻斬りの頻発。この内容からも、地蔵に封印されていたものは相当力を付けていたに違いない。当時も伐除しきれず、経年変化で弱体化するのを待つことにしたのだろう。そのための封印であることも予測できた。

 とはいえ、いくら力を付けたとはいえ辻神が人を殺せるとは思えない。通りゃんせの夢との因果関係が見いだせなかった。なにか別の要因が働いている。

 天神参りが関係あるのだろうか。なんともN-4特区らしい話だ。もっとも、現実では天神に参るどころか、魔の交差点で殺されてしまっているが。

 ため息をつき深く椅子の背にもたれかかる。

「かわいそうになぁ」

 ひしゃけたスポーツカーの写真を見ながらつぶやいた。

「やっぱ高いんすか。スポーツカー」

 櫟原が自席から訊ねる。

「高いよぉ」

 その資料写真を見た日から何度もつぶやいているせいで、所員たちは耳にタコができていた。武塔曰く、スポーツカーはロマンなのだ、と。

「櫟原くん、興味ないの?」

「俺専門外っすね。詳しくないし、そういうのより大型の車が好きっす」

「そうなのか……じゃあ、しんちゃんは?」

 訊ねられた来栖はぽかんと口を開けた。

「……俺、でかいんで」

「そっか、入らないか」

 スポーツカーにすし詰めになる来栖を想像して笑いこける櫟原。確かに来栖の乗る車は大型のバンだったのを武塔は思い出した。

「中古とはいえ高いからね、気の毒だと思うよ」

「この人なんで事故っちゃったんすかね」

「自損だって聞いてるけどね」

 そう答え武塔はふと一つの疑問が浮上した。この事故が原因で封印が破られた。ならば、いの一番に影響を受けているのは車の運転手ではなかろうか。

「しんちゃんたち、ちょっとお使い頼まれてくれない?」

 煉獄の巡視と澱の除去作業に出ようとする彼らを引き留めた。事故の前後で変わったことは起こらなかったか、スポーツカーの運転手に話を聞いてくるように言う。

 二つ返事で頷いた来栖。地図データは後で送るからと二人を送り出した。

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