2-2

「あらぁ? ようやく綺麗にするのかしら?」

 か細い声が聞こえた。一同がその方向を見ると、老年の女性がいた。

「ええ、そのための調査をしています」

「あら、そうなのぉ」

「最近交通事故も多いですから、念入りに」

 碓井がさも当然のように言葉を並べた。実際、この調査が終わればここを綺麗にする方法も見つかるため、あながち間違いとも言い切れない。

 手押し車に小さな花束が乗っているのを見、碓井は言葉を続ける。

「どなたか、お知り合いでも」

「……淑子さんが……お友達がね、事故で」

 女性が語るのはついこの間、道路に飛び込んだ友人の話だった。事故当日、楽しくお茶をしたばかりだと言う。自殺するような雰囲気でもなかったと彼女は言う。

「認知症でもなかったから本当に驚いて……」

「ご愁傷様です」

「でも、ちょっとおかしなことを言っててね」

 碓井たちは耳をそばだたせた。

「予知夢を見たんだって」

「予知夢?」

「今日お迎えが来るかもしれないって笑ってたわ。だから本当に驚いて」

「すみません、その方は他に何か言ってませんでしたか」

 ずいっと割り込んできたのは波羅だった。まさか、現場で新情報を掴むとは思わなかった。

 少し驚いた様子の彼女は「そうねぇ」と、小首をかしげた。

「気味が悪かったって言ってたわ。少し、怖かったって」

「気味が悪い?」

「男の人が喋るんですって。お前は死ぬって」

「それは確かに気味が悪いですね」

 さらに新情報だった。

 どんな風貌か、様子はどうだったか訊ねたが所詮は他人の夢。わかるのはここまでだった。

 彼女は花をガードレールのそばに置くとゆっくりとした動作で手を合わせた。

「ごめんなさいね、人が死んだ場所でこんな話……」

 彼女から聞き取りができるのはここまでだろう。立ち去る小さな背中を見送ると三人は顔を突き合せた。

「その男性が何者か心当たりはありますか」

「死んだ魂魄が具象化したと考えるのが無難だけど」

「姿かたちがわからないと幽霊なのか妖魔なのか区別がつきませんね」

「そもそも知り合いなのか?」

 様々な意見が飛び交う。

「そもそも、予知夢というより予言に近いですよね」

 佐藤がぽつりとつぶやいた。

「未来視できる人物とか?」

「相当霊力の高い何者かということになりますね。その場合だと生霊の可能性もあります」

「でも、なんの目的で?」

 そもそも人の姿を借りた何者かという線も捨てきれない。未来が見えたから予言をする目的もわからない。言えるのは、予言を聞き確実に死んでいることから、悪意はあるということ。

「波羅さん、佐藤さん。今まで聞き取りをしてきた中で、夢に男性が出てきた話がないか攫ってください」

「通りゃんせとの関係性も洗ってみます」

 佐藤の言葉に碓井は頷くと「ぼくは、佐伯邸に再度聞き取りに行ってきます。二人は煉獄に行って調査を進めてください」と、踵を返した。

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