交差点
2-1
交差点で事故が増え始めたのが初夏の終わり。それ以降、断続的に死亡事故を発生させている。犠牲者は首や頭を損傷する共通点を持っていた。
一人目は藤谷敬。交通事故により頭部損傷。即死。
二人目は平田淑子。こちらも交通事故により頭部を強く打ち、その場で死亡が確認。
三人目、四人目以降も同様に事件や事故に巻き込まれた形で死亡。計七人の犠牲者を出している。
「世代も性別もバラバラ。共通点はこの交差点で頭部の損傷により死亡していること」
資料に目を通しながら碓井が続ける。
中には通り魔に襲われたり、歩道橋からの投身自殺で頸椎を骨折するものもあった。
「田山所長からの連絡書によると、煉獄内での異変はなし。澱の影響で事故が起きているわけではないとのこと」
同時に事故を起こす要因も見つからなかった。
「何かしろ、条件が付与されているのは確かです。しかし、それが何者によるかは未だ不明。その痕跡があるか調査を行います」
又五交差点を作る二つの筋は、片側三車線の広い道路で、辻を作る四つの島のうち二つにはマンションとコンビニを一階に持つテナントビルが建つ。内一つは売地で、残りの一つの島には広くタイルを並べ、花壇やベンチなど、利用者の休憩スペースとなっていた。
「資料から横断歩道を中心に死亡事故が発生している可能性がありました」
南北に走る新刈場通りから南を向くと、正面の島にはコンビニ。斜向かいにはマンション。西側の島には売地がある。
一人目の犠牲者はコンビニから出、目の前の横断歩道で左折車にはねられた。タブレットの地図上にて、目の前の横断歩道にマッピングされている。
二人目は西に向かう横断歩道。歩行者信号は赤だったにも拘わらず、侵入した結果死亡。
「死亡エリアが徐々に広がってるわけだ。この広場から」
二人目以降、触手を伸ばすように広がっていくエリアを見、波羅がつぶやいた。最終的には交差点全体で犠牲者が出ている。
「おそらくここが起点。まずは現世から調査をします」
「つってもさあ……」
波羅がやれやれとつぶやくのも無理はない。花壇はえぐれレンガが歯抜けになり、ベンチは使用可能な一つのみを残し、残りは土台から上を撤去。立ち入り禁止看板と三角コーン。
「これぇ……」
「車が突っ込んだそうです」
「ええ……」
スポーツカーが突っ込み破損。深夜の事故だったそうで運転手の怪我だけで済んだ。
「しかし、その事故が起こったのは初夏。処理が進まずにいるそうです」
波羅と佐藤は碓井を見上げた。
業者が入る日になると事故が起こり、搬入作業ができず。とりあえず怪我人が出ないように応急処置として撤去のみを行った状態で今日まで放置されてしまったそう。
「なにかしろの影響が働いているってことですね」
「しかし、黒幕の姿はなし」
佐藤がぐるりと広場を見渡す。囲われた中にタイルがはがれ、土がむき出しになっている場所を見つけた。半畳もない、座布団程度の敷地だった。
「あれは?」
その土は浅く半球状に落ちくぼんでいる。
碓井がタブレットを操作し写真データを表示する。
「事故が起こる前は地蔵があったようです」
「ふうん」と、つぶやいた波羅が仕切りのバーを越え、まじまじと覗き込む。
「なんもないね。きれいさっぱり」
肩をすくめながら波羅は言った。本来であれば犠牲者の首を刈る実行者の痕跡があってもおかしくない。しかし、除去以降過度に汚染されたようには見受けられない。
「この前みたいに隠れた場所や見えづらい場所に澱がたまってる可能性はないでしょうか」
八咫烏の件を思い出しながら佐藤が訊ねる。
「可能性はあります」
碓井が頷いた。
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