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一体どれだけの烏を切っただろう。あたりはひどい腐臭で、ひどく目に染みる。血の脂のせいか、澱のせいか、刃こぼれしていないはずなのに切れ味が悪い。何度血振りしてもねっとりとした重みがまとわりついているような気がした。
「佐藤さん、式神はまだありますか」
「もうほとんど……」
足許に散らばる、食いちぎられた式神の残骸たち。残りの数を数えても、空にいる烏たちに対抗するにはいささか足りない。
いざとなったら彼女は車に避難してもらうしかない。碓井は太刀を構えなおした。
ちらりと横目で波羅を伺えば、読経しながらサムズアップしていた。彼女はまだまだ問題なさそうだ。
再び空を仰ぎ、向かってくる烏たちを薙ぎ払う。すると、そのとき、空を覆うようにびっしりと舞う烏たちが波紋のように、どうっと波打ち、一瞬だけ動きが麻痺した。何羽かは痙攣しながら地面に落下していく。
一体何事かと、様子を伺う碓井。他の二人も同様に空を見上げている。すると、烏たちは排水口に流れていく汚水のように、しゅるしゅると糸をひき移動を始めた。空を覆いつくすほどだった数も、まばらになっている。
「何が……起こったんだ?」
すると、その場に似つかわしくない電子音が鳴りだした。波羅は震える携帯を取り出し、ディスプレイを見た。
「うぃうぃ、はらたまです」
読経を止めた波羅は飯綱からの電話を取った。
事務所が烏に襲撃され、荒れ果てていること。神来社が戻り、すでに烏は撃破済みなこと。煉獄側から神来社を現場に向かわせたこと。飯綱の報告の後ろで武塔の話し声が聞こえる。話の内容からして来栖に連絡を入れているのだとわかった。
「ちょうどこっちの烏も一気にはけていったから、たぶん煉獄に向かったくさい」
『黎ちゃんてば人気者だねえ』
得意げに笑う飯綱の声を聞きながら、手持ち無沙汰に足許の烏をつま先で転がす。ぼてっと、泥水の入った水風船のようにひっくり返った。
「むっ?」
他の烏もいくつか裏返し、あたりに落ちている烏も確認する。
「三本……」
『え? 何?』
「脚が三本だ、この烏たち」
それを聞いていた碓井たちも慌てて地面に落ちた烏を見る。どの個体も不完全ながらも三本目の脚ととれるものが確認できる。飯綱も『うわっ、本当だ! 脚三本!』と、驚愕する声がする。この生き物の正体が割れ、電話の向こうがせわしくなった様子がうかがえる。
「なるほどね……そういうことか」
波羅は独り言ち、転がる烏を蹴飛ばした。
※
――ザー……
ぐちゃぐちゃ、こんこん。
テレビにうつるからすは、じっとわたしをみつめている。
ぐちゃぐちゃ、こんこん。
しこうが、ほうわしていく。
じっとからすをみつめていると、まるでひとつにとけあったかのようなきぶんになる。まるで、やわらかくうれたかじつのかわがやぶけ、にじみでたしるがとけあうような。わたしのひとみがやぶけ、からすのひとみがやぶけ、しるがまざりあうような。
ぐちゃぐちゃ、こんこん。
縺こうが、とけあって九る。
どう∩て、こんなことになったんだ縺う。かえり輔い。こんなはず縺ゃなかったの励。もっと、ちか縺があ励ば。おいてかな>で。わす励な>で。繧翫りは縺輔∩い。
そのとき、う∩ろのでん繧がなった。縺輔∩縺励>。あたまにひび>するどいおとだった。えいりなはもののようにつき輔さるその音は、繧たしの∩こうをふじょうさせていった。
でんわがなっている。
だれだろう。縺輔∩縺励>。でなきゃ。でも、からだが縺輔∩縺励>うごかない。しせんは縺輔∩縺励>てれびにぬいつけられ、からだは言うことをきかない。縺輔∩縺励>。でんわのおとはまだ∩ている。
テレビに映るからすはしきりに、がめんをつついている。あまりにもつよくつつくせいか、からだじゅうから汁がとび出している。
縺輔∩縺励>。
この烏は、どうしてこんなにひっしになっているんだろう。そんなことより、早くでんわに出ないといけない。そんな気がする。はやく、早く。
わからないことばかりだけど、早くしないといけないけど、どうしてわたしはひとりなんだろう。亜あ、
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