3-6
「もしもし。しんちゃん? どうしたの」
武塔が電話の着信を取るのと同時に事務所の扉を開いた。
飯綱隊と共に戻ってきた武塔はそのまま自席に向かう。すると、事務所の固定電話が鳴った。ディスプレイには携帯番号。見覚えのある番号だと受話器を取ったのはハイネだった。
「もしもし」
『お疲れ様です。碓井です』
所長に取り次いでほしいとのことだがあいにく話し中だ。
「要件を伝えましょうか」
『今回の調査での報告で、至急伝えたいことがあると……』
碓井からの伝言を手許のメモに書き残している最中だった。武塔の「えっ!」と、いう声が遮った。思わずペンを動かす手を止め、武塔を見るハイネ。どうやら碓井にも聞こえたらしく驚愕したのか黙っている。
「天鬼さんが行方不明の可能性? うん、うん……波羅ちゃんから? うん……」
顔をあげた武塔と目が合った。ハイネは通話口を手でふさぎながら「碓井さんからです」と、受話器を上げる。
『どうかしたんですか?』
電話口から碓井の心配そうな声が聞こえる。受話器を耳に戻したハイネはどうしたものかと言いあぐねていると、携帯を片手に持った武塔が横にいた。
「碓井くんだよね? かわってほしい」
ハイネはそのまま受話器を渡すと、武塔はなぜか携帯を差し出した。条件反射で受け取ってしまったそれは未だ通話中で、どうしたものかと考えようとした最中、ほんの一瞬のすきに隣からにゅっと伸びてきた手にさらわれていってしまった。
「もしもし、来栖さん? あさきでーす」
空気にそぐわない声で話しかける飯綱。諫めようと名前を呼んだが、ひらひらと手を振られ、いなされてしまった。
「あのね、今日うちらで見てきた案件。もしかしたらそっちの事件と関係あるかも」
飯綱はなんでもない風に言ってのけた。思わずハイネは再び開いた口を閉じた。ふだんでこそ、ちゃらんぽらんに見える彼女もリーダーなのだ。情報処理能力や判断力はずば抜けて高い。おそらく、電話のやり取りやこれまでの報告書から予測を導き出したのだろう。
「煉獄内で神使が食い荒らされた件は知ってる? そう、碓井君たちの案件ね。それでね、今回N-2の新人が殺害された方法が類似してて」
まるで食い荒らされたようになっていたこと。他の地区の神使も被害を受けていたこと。澱が増加していること。飯綱は順を追って説明していった。電話口の来栖は黙って耳を傾けているのか彼女はするすると言葉を続けていく。
そんなおり、武塔の話の決着がついたのかいくつか指示を出したあと、受話器を置いた。飯綱もそれに気づいたのかいくつか話すと、携帯を武塔に手渡した。
「もしもし、しんちゃん? とりあえず碓井隊向かわせたから合流して。現場の位置は彼らが知ってるから、連携して天鬼さんの捜索と原因の究明」
武塔が来栖に指示を出す。彼を横目に立ち上がる二人。
「エリー、準備始めておいて」
「わかりました」
二人が準備を始めた瞬間だった。事務所の窓ガラスがすべて弾け、一気に吹き込んできた。
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