3-5

「とりあえず既読はついた」

「ほんなら来栖さんは無事ってことやね」

 ほっと胸をなでおろす佐藤。

 チームメンバーと合流した波羅は柳瀬から聞いた話を伝えるとすぐさま来栖にテキストを送っていた。

「いったん状況を整理しましょう」

 そう言って碓井は集めた情報の確認を始めた。

 小祠の破壊があったのが今年の初め。現場の廃棄物に紛れていたため、立ち入った者の大半は影響を受け負傷。

「澱が発生し始めたのも大体この時期だよね」

 波羅が過去の報告にあった日付を思い出しながら言う。自体の深刻さに気がついたのはもっと先の話だが。伊勢神宮近辺でも澱が多発していることから、今回の件と関係性があると判断できる。

聖域の汚濁により氏神が弱体化。澱による汚染が悪化し拡大。施工業者として働いていた小木曽健太郎さんは特に影響を受け神隠しにあう。娘の澪ちゃんも伝播し神隠し。そこを碓井たちが救出。現状、神隠しの報告はこれだけだが、さらに被害があるとみて間違いない。

「そう言えば天鬼さん、そのとき黒い影を見たって言ってました」

「対象があの場にいてもおかしくありませんね。それか引きずり込まれる神使を見た可能性もあります」

 佐藤の言葉にうなずきながら碓井が答える。

 あの家では氏神の依り代、鶏が貪り食われていた。

「そして今日、飯綱隊は緊急任務に駆り出された」

 N-2地区の新人が死亡した。それだけで他地区の職員が駆り出されることはまずない。ということは何か事件が発生し調査に出たと考えるのが濃厚。

「そこんところはタラレバで話しても仕方ないでしょ。問題なのは来栖さんたちが今いる現場がそのポイントの近くだっていうことだよ」

 小祠があった森も、健太郎さんがいた現場も、波羅が話を聞いてきた場所と一致する。

「事件発生から大分時間が経っている。被害が拡大していることから、ターゲットの威力は強化されて言っているとみて間違いないでしょう」

「問題はそのターゲットが何かということか」

「ただの土地神という線もありうるが、今回の犯行を見てかなり知能が高いです。その祠の系譜が分かれば対抗手段を準備できるのですが」

 今ある情報だけでは判断が付かなかった。

「私が、あのときちゃんと調べておけばよかった」

「あの状況じゃ無理だったでしょ。過去は過去、今は今。これからどうするか考えるよ」

 佐藤に落ち込む間を与えずに言う。波羅なりの鼓舞だった。

「とりあえず、ぼくは所長に報告をします。二人はすぐに行動できるよう備えてください」

 すでに電話を耳に当てながら碓井が指示を出す。頷いた二人はそれぞれの装備を取り出す。波羅はもう一度携帯を取り出し、メッセージアプリを確認する。そこには来栖に送ったメッセージと既読の表示。返事は表示されていなかった。

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