3-4

「来ないっすねえ」

「……」

 社用車の外に並ぶ櫟原と来栖。雨は上がり、雲間から青空が見える。

「俺、探しに行きましょうか?」

「……もうちょっと待とう」

 来栖は静かにたたずむのみだった。落ち着きがないのは櫟原の方できょろきょろとあたりを見渡している。

 集合時間になっても一向に天鬼は姿を現さない。

「電話もう一回かけてみますね」

 五分前にも電話をかけたばかりだが櫟原は再び通話ボタンを押した。しかし、聞こえてくるのはコール音のみ。櫟原は大きなため息を吐いて携帯を仕舞った。

「迷子になってるかもしれませんよ?」

「……あともう少し」

 集合時間まであと少しある。ラーメンが食べたくて仕方ないのか「腹減ったあ」と独り言ちる櫟原。

「……天鬼さんは、どう?」

「え? ああ、仕事っすか。一生懸命だし、勉強熱心だし、わからないことも聞いてくれるからいいと思いますよ」

 他愛のない会話で時間をつぶすしかないと思ったのか、珍しく来栖から話を持ち掛けた。新入社員の天鬼は確かに一所懸命だ。それは来栖もよくわかった。しかし、能力が使えないことを引け目に感じているような節を感じる。たまたま、能力保持者が多いだけで、能力を持たない職員もいる。そのことを説明しようかと思ったが下手に刺激してコンプレックスになってもいけない。来栖はどうするべきか考えていた。

「……他は? なんかある?」

「うーん、気づきって言うほどでもないんすけど、時々ボーっとしてるというか、なんか考え込んでるときがありますね。極力声かけるようにはしてるんすけど」

 櫟原のような人材がいてよかったと胸をなでおろした。勘も良ければ気も回る。よくできた部下だと常々思っている。

「この前トンネル行ったときなんか、カメラの使い方教えるの忘れてたから声かけたんすよ。でも、『大丈夫です』って言われちゃって」

 確か、機械音痴だと言っていた天鬼が断わるようには思えない。なぜそんなことを言ったのだろう。

 その時、来栖の携帯が震えた。何やらテキストを受信したようだ。携帯を見る来栖に「葵ちゃんすか?」と訊ねる櫟原。

「……波羅ちゃんから」

「波羅さん?」

 内容を読んだ来栖の眉間にしわが寄る。ただ事ではないと察知した櫟原は息を飲んだ。そして、見せられたディスプレイには『無事?』の一言。既読が付いたのを確認したのか次いで『来栖隊現在地、汚染原因の可能性大』との文字。普段のおちゃらけた文面とは違い、適切な文章を最小限で記載している。

 そして、それは天鬼が危険にさらされていること示唆している。

「来栖さん」

「所長に連絡して指示を仰ぐ。おそらくここは危険区域になる。天鬼さんピックアップのためすぐ動けるよう準備して」

「はい!」

 社用車を開け装備を取り出す櫟原。来栖はそのまま武塔に電話をかけた。

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