2-6
ソファーの前にあるローテーブル。そこにはいくつかビールの空き缶が転がっていた。前回とは違う、明確な変化だった。
帰宅し、冷蔵庫を開け、ビールを持ってソファーに座る。そして、テレビを見る。おおよその動線は見えた。碓井はローテーブルに近づく。だんだんと強くなる臭気。ビールだけではない。
ソファー越しに覗き込むと床に散らばっているのは大量の羽だった。一瞬、そういう柄の絨毯か何かだとも思えたが、それらは赤錆びた血糊でべったりと貼りついていた。この部屋の異臭はこれが原因か。思わず顔をしかめた。薄茶や白、見慣れた羽の色だった。
すると突然、南側の大窓からノック音がした。佐藤だった。
「なにかありましたか」
窓を開け碓井が訊ねると、佐藤は深刻な表情で彼を見上げた。
「一通りこの家の周辺を探索したんですが、西側がちょっとひどい状況でして……」
「西側が?」
佐藤は指を組み困惑していた。「ちょっと一緒に見てもらえませんか」と、碓井を連れ立つ。東側とは違い往来を想定していない作りなので隣との距離が近い。つまりは影になる。
「これは……」
碓井は思わず後退さりそうになった。佐藤が困惑するのも無理はない。
狭い通路にはあたり一面、羽で埋め尽くされていた。その中には、ばらされ、
帰宅した健太郎さん。片手には氏神。冷蔵庫まで行きビールを取る。ソファーに腰かけるとテレビをつける。ビールのプルタブを開け、喉を潤す。そして、氏神をむさぼる。滴る血と舞う羽、暴れ狂う氏神。
碓井の脳内に最悪の想像が浮かんだ。碓井は眉間を揉むと「他に異常がないか調べてもらえますか」と、佐藤に依頼する。
すると、佐藤はまごつきながら「あともう一つ報告が」と、口を開いた。
「この家の屋根にも氏神の残骸がありました。それと」
「それと?」
「一面澱で汚染されてます。べっとりと」
血糊と澱でぐちゃぐちゃになった屋根を想像し碓井はこの家を見上げた。見る限りただ一般的な軒しか見えない。すると、二階の窓ががらりと音を立て、波羅の顔がひょっこりと飛び出した。
眼下の惨劇を見、一瞬目を見開くと眉間にシワを寄せ「すごく気味悪いんだけど、この家」と、漏らした。
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