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「今回神隠しにあったのは小木曽澪おぎそみおさん三歳。昨日昼頃、母親と公園に行き、目を離した数秒の間に姿が見えなくなり捜索。しかし、周辺に澪さんは見当たらず警察に通報。澱が検出されたため事件と事故、そして神隠しの方向で捜索することが固まった。そして、煉獄にいる鶏たちの捜索により澪さんを発見」

「現世に連れ帰ればいいんですね」

 武塔は深く頷いた。

「ただ、懸念事項が一つある」

 いつにもまして真剣な表情になった武塔が資料から顔をあげる。

「澪さんの父親の小木曽健太郎おぎそけんたろうさんも行方不明になっているんだ」

 先週、仕事に出たきり帰ってこなかったそう。夜勤もあるし仕事の関係で帰れないのだろうと思ったが、連絡がないことが心配になり、健太郎さんに連絡するもつながらず。警察に捜索願を出した。

「もし神隠しだとしたら、人間の活動限界時間を越えている。もう、生きてはいないだろう」

 煉獄に神隠しされるパターンは二つ。精神のみ送られる場合と肉体と精神どちらともが送られる場合。そして、煉獄には活動限界が存在する。その時間を超過すると精神、ないし肉体が消失してしまう。精神と肉体二つがそろって魂が宿り現世に存在できる。そのどちらかを失うと現世に戻れず魂のみが煉獄に残されてしまう。

「もし健太郎さんの魂を見つけたら、説得してお見送りしてほしい」

 もし、煉獄にとどまり続ける魂がある場合はお見送りしなければならない。腐った魂は澱を吐き出し煉獄を汚す。神隠しや特異事象の問題になりかねないためだった。魂をお見送りした先、魔界に行くか、天界に行くかは神のみぞ知ることとなる。

「健太郎さん失踪の件、煉保局うちらには連絡入ってないんですよね。だったらただ蒸発しただけの可能性もあるってことですか」

「まあそうなるね」

 波羅が訊ねると次いで佐藤が訊ねた。

「奥さんはなんて言ってはるんですか」

「最近元気がなかったって。あと、家が汚いから帰りたがらないとも言っていたそうだよ。話を聞いた職員によると、家は綺麗だったようだけどね」

「確かに健太郎さんの件も気になりますが、今回は澪ちゃんの捜索に集中しましょう。それと天鬼さんは着替えてきてください」

 碓井に言われ自分がまだ白装束だったことに気が付く。

「準備ができたら出発します」

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