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煉獄と現世の境界は、一定の条件下で解除される。例えば夕方だとか、敷地の出入り口だとか。なのでその条件を知っていれば煉獄への侵入は一般人でも容易にできてしまう。出られるかはまた話が別だが。
管理局の職員は仕事柄煉獄への出入りが激しい。基本的には神社や人目の少ない場所を利用して煉獄入りする。
「驚きました。まさかトイレの横から煉獄入りできるなんて」
天鬼は鼻息荒く語った。天鬼は承認式をしたあの神社から煉獄入りするのだとばかり思っていた。しかし、一同は外へは向かわず事務所トイレの横、一般の企業ならば資料室や倉庫に使われているだろう部屋の扉の前にそろった。そして、まどろっこしい
「これもいっちーのおかげよねん」
「いっちー?」
「いちはらてつくん。天鬼さんの一年先輩にあたる人です」
佐藤の補足はいつも丁寧で分かりやすい。
「すごい先輩なんですね」
「陰陽師の家系なんだってさ。でも遷移道術しか使えないけどね」
初めて波羅が笑った顔を見たかもしれない。鉄面皮で幼い顔をしているがニヒルな顔で笑うのだと驚いた。
流れる車窓から景色に目を移した。人の気配もなければ生き物の気配もない。ただそこに建物があるだけ。自動車すらも見当たらない。動くものが何一つない世界で唯一動いているのは碓井の運転するこの車だけだった。
「この車って消失するんですか」
本来煉獄に車はない。あったとしてもただ物体として存在するだけで移動手段としての機能はない。
「これは式神なので術者が式を解除すれば消えますし、現世で作成したものなので煉獄内に存在し続けることは不可能です。一時的な手段でしかないんですよ」
「移動型式神もまあ悪くないよね。でも、どうせ煉獄でしか使わないんだから営業車じゃなくて高級車にしたらいいのに」
「と、環ちゃんは言いますが、装飾が多ければ多いほど式が難しくなるので顕現しづらいんですよ」
「と、式神使いのときちゃんは言う」
二人のコンビネーションに目を白黒させていると、運転席の碓井が口を開く。
「とはいえ、この営業車だって略式を使っているので本来はもっと軽微なものなんです。普通の自動車みたいにエアコンを使ったり、なめらかに走行したりできるのは佐藤さんの技量のおかげなんですよ」
碓井が次いで言うと、佐藤は「それほどでも」と、なんでもないように肩をすくめた。
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