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「お、やっと来た。待ちくたびれたよ」
事務所の扉を開けると武塔とはまた違った呑気な声がした。武塔が「ごめんごめん」と手刀で謝りながら部屋に入る。神隠し捜索の前とは思えないほど牧歌的な雰囲気だ。
「あなたが新人さんね」
椅子にもたれながらそう言った彼女は、学生なのではないかと錯覚してしまうくらい幼い顔立ちをしている。それに化粧っ気もなく、天鬼と対格差がないくらい小柄だった。
「初めまして! 天鬼葵です!」
とはいえ、自分の先輩にあたるのは間違いない。くたびれた紺色のブルゾンを着ているからだ。見た目で人を判断してはいけないと、とっさに頭を下げた。
それを見た彼女はうんうんと頷き、椅子を回転させこちらに体を向けた。
「はらたまきです。はらたまって呼んでね。で、こっちがときちゃん。しゅうじろうは今トイレ」
彼女の左腕には「波羅環」と、刺繍されていた。原ではなく波羅なのか、と心中で独り言ちる。
ときちゃんと紹介された方を見る。ブルゾンは椅子の背もたれに着せ、本人は薄桃のカーディガンを着ている。ブルゾンの左腕には「佐藤時子」の刺繍。
「それじゃあ、わからへんと思うよ」と、西の訛りで苦笑しつつ「初めまして、佐藤です」と丁寧に頭を下げた。柔和そうな女性だ。すかさず天鬼も頭を下げた。
「そして、我らがリーダー」
波羅が机を太鼓に見立ててドラムロールを起こす。タイミングを見計らったかのように部屋の扉が開いた。ハンカチで手を拭きながら入室してきたのは眼帯の男だった。
「脩二郎です!」
「え?」
状況が読めないのかきょとんとした顔で事務室を見渡す。拍手をする武塔と佐藤、そして同じく驚いて直立したままの天鬼を見てようやく理解したようで、はっとすると慌ててハンカチを仕舞う。ふざける波羅を一瞬目で制すると、背筋を伸ばし天鬼と対峙した。
「はじめまして、
あまりにも完璧なあいさつに天鬼も改めて背筋を伸ばした。
「こ、こちらこそお願いします! 天鬼葵です!」
一通り挨拶が終わったのを確認し、武塔が立ち上がった。
「では、今回の任務について申し送りをしたいんだけど、始めてもいいかな?」
「いいともー」
波羅が床を蹴ると椅子のキャスターで会議用のデスクに移動していく。他のメンバーも同じく着席した。天鬼も座ると、メモを取り出した。各々が用意ができたのを見計らい武塔が口を開く。
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