002
目を開く。
部屋は
気付くと、両手が鉄の
上下左右、そして後ろは石の壁で囲われており、前は金属の
わかりやすく言うと、牢屋だ。
もっと言うと、全裸 in 牢屋だ
「覚めないならせめて悪夢じゃない夢を見せてくれよ……」
思わず呟くと、格子の外、すぐ右から金属がぶつかる音が鳴った。今度の夢はファンタジーじゃなくホラーか?
身構えると、シルバーに
緊張がいくらか
鎧人間が去り、体感で数十分が過ぎた頃、先程の金属音と共に何人かの足音が近づいてくるのが聞こえた。
さっきも見た銀の鎧人間と、それより背が高い鎧人間。白を
青年男性は、貴族なんか生で見たこと無いオレでも分かるくらい、高貴な人間としての風格を
もし彼がテレビのバラエティに出演したなら、司会の芸人に「超オシャレなオーストリア
下らない事を考えていると、青年貴族が目線で合図し、銀鎧に扉を開けさせていた。デカ鎧の方はピッタリ二人に寄り添い、ボディーガード
「立て」
貴族が言う。とりあえず素直に
「言葉は理解している、と」
「
大司祭と呼ばれた老人が頷くと、首にかけていたペンダントを
「やれ」
貴族がそういうと、銀鎧は金属を纏っているとは思えない素早さで牢に入ってくると、気づけばオレは床に寝かされていた。
自分が何をどうされたのかは分からない。しかし銀鎧がオレを
銀鎧は腰の短剣を抜く。
一瞬で全身が
「やめろ!」
叫び、全力で身を
銀鎧が短剣を構え、狙いをつける。多分、オレの胸に。
遂にそれは振り下ろされた。
先程とは違い、目で追うことが出来た。世界がスローモーションのように遅い。
スローモーション……?
あぁ、そういえばオレは電車に
じゃあコレは
半ばヤケになり、とりとめもないことを考えていると、短剣がオレの胸を突き刺す直前でビタッと止まった。
「え……?」
「恐怖が半分、
「そうか、感謝する」
「では失礼」
そう言うと大司教はその場を離れ、どこかへ去ってしまった。
「この者を鉄の
それだけ言い残すと貴族はデカ鎧を連れ立って踵を返しこの空間から出ていく。
残された銀鎧は短剣を
*
先程の言葉通り、鉄でできた
例の部屋とやらに運び込まれたオレは、その部屋の明るさに目を細めた。
木目のフローリングには真っ赤な
THE西洋の貴族の部屋って感じだ。
入ってきた扉を通せんぼするように銀鎧が立っており、部屋の中央には椅子に座った青年貴族、
「彼に椅子を」
貴族が言うと、デカ鎧が部屋の椅子を持ってきて、ドスンと置く。ちょうど貴族と対面するような位置だ。
現代日本では許可されるまで座らないのがマナーらしいが、ここでそれが通用するのか分からない。
まごついていると、貴族は目線で着席を
明るい部屋でよく観察すると、貴族はヨーロッパ人を想起させる顔立ちをしており、有り体に言えばイケメンだった。センター分けされた
「まず聞こう。なぜ君の話す言語を、我々が理解できる?」
こっちが聞きたい。この貴族らはオレの知らない言語で話しているにもかかわらず、頭の中でその意味を理解できているのである。ドラゴンの時に至っては鳴き声をも理解できていた。おまけにオレの日本語も伝わっているらしい。
「すみません、自分でも何がなんだか分からなくて」
こういう時はとりあえず敬語だ。目上の人間には敬語、それで失敗することは無いだろう……多分。
貴族はしばし目を
「まぁ、君のことを
暴力をチラつかせておいてこのセリフ、選択肢など無いと言ってるのと変わりない。
また決まった
ため息をつきたくなったが、こんな状況でやってのける程、
「はい、あなたに従います。えっと……」
「マクシミリアン・フォン・ラグズウルク。名は口にせず、
「わかりました、殿下」
「よし。話は簡単だ、魔術師として私に仕えたまえ。それだけだ」
コイツは何を言っているんだ?
「その、申し訳ないのですが、
「この状況で無知のフリは賢い選択では無いぞ」
「いえ本当に……! 知らないんです、何も」
「じゃあ竜をどうやって撃退した?」
殿下が
「べらべらと一方的に喋りかけられて、気付いたらどこかへ飛んでいきました……本当です、嘘じゃありません」
「殿下、一つだけよろしいでしょうか」
デカ鎧が喋りだす。男の声だ。
「どうした? 聞こう」
「この者、先程の一件で反撃しなかったのではなく──」
「あぁ、出来なかった、ということか」
デカ鎧は頷く。
「であるならば、魔術が使えないというのは事実かもしれません」
「自分の命がかかった場面で冗談言える人間にも見えないし、な」
殿下は顎を
「君、魔術を使えるようになりなさい」
そんな簡単に言われても困る。
「君に、”リーン領のとある村に住む、独学で翻訳魔術を完成させた
「17です」
「見た目では学園生くらいだと思ったが……。なら学院だな」
学園だか学院だか知らないが、確認すべきことが一つ。
「えっと、もし魔術が使えるようにならなかったら……」
「君は存在しなかったことになる。いや、存在しなかったことにさせる」
背筋に
「そんな悲観しないでくれ。もし卒業できたら君は
「わ……かりました」
現代日本の常識からするとあり得ないぐらい非対等な
「で、君の名前は?」
「
「キドー・ル、ロ、ロー?」
「りょう、です」
「ロー、ロウ、ルォウ……多分この国の人間はその音を発音できないな。君の名前はこれからロウだ」
「えっ! キドーの方、えっと名字は?」
「難民が家名を持ってたら色々面倒なことになるからナシだ。悪いけど君はこれから『ホースノキア大公国にて保護された東方系難民、名はロウ。多大なる魔力の保有を認められ、マクシミリアン・フォン・ラグズウルクの推薦により学院へ編入』という設定に従って生きてくれ」
「……はい」
「明日の朝にはここを発って学院へ向かう手配をするから、この部屋からは出ないように」
そう言うと殿下と鎧達は部屋を後にした。足音が遠ざかり、聞こえなくなる。
「夢でも走馬灯でもないのかよ」
ベッドに倒れ込み、呟く。
「家に帰りてぇ……」
無力感に
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